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濃霧の町を《赤目のゴーグル男》が走り回る! 巨匠が贈る謎と推理の挑戦状。

ゴーグル男の怪

島田荘司/著

1,836円(税込)

本の仕様

発売日:2011/10/31

読み仮名 ゴーグルオトコノカイ
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 380ページ
ISBN 978-4-10-325233-7
C-CODE 0093
ジャンル ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
定価 1,836円

「そいつ、両目の皮膚が溶けたように真っ赤なんですよ……」煙草屋の老婆が殺された夜、異様な男が目撃された。現場の窓から覗く顔、次々と発見される黄色く塗られた五千円札、ウラン臨界事故との因縁。そしてついに、白昼堂々《ゴーグル男》が出現した! あなたはこの難事件を解決できるか。怪奇と驚愕に満ちた本格ミステリー。

著者プロフィール

島田荘司 シマダ・ソウジ

1948(昭和23)年、広島県生まれ。武蔵野美術大学卒。1981年『占星術殺人事件』でデビュー。以降、『斜め屋敷の犯罪』『異邦の騎士』の御手洗潔シリーズ、『奇想、天を動かす』などの吉敷竹史シリーズを中心に、本格ミステリーの旗手として不動の地位を築く。2008年、日本ミステリー文学大賞受賞。近著に『星籠の海』『新しい十五匹のネズミのフライ』『御手洗潔の追憶』『屋上』があり、映像化、コミック化も多数。

書評

トリック優先から物語性重視へ

新保博久

 TVを視る習慣のない私は知らなかったが、この8月5日、NHKとケータイ小説との連動企画「探偵Xからの挑戦状!」夏休みスペシャルとして島田荘司のオリジナル原作に基く78分の推理パズル番組が放映された。こんど出る『ゴーグル男の怪』は、その同名小説である。しかし約150枚の原作そのままでも、番組のノヴェライゼーションでもない。当の番組を視ていても視ていなくても楽しめる、まぎれもない島田荘司の新作長篇ミステリなのだ。知らずに読めば、もとが犯人当てクイズであったとは信じられないくらいだ。
 当代の人気推理作家たちを糾合したもとの番組シリーズは、シーズン1、2の小説版が小学館文庫から刊行されているが、いくつか読んでみて私は飽きてしまった。問題篇・解答篇あわせて数十分で唯一無二、しかも意外性のある解決に導こうとするせいか、普通の推理小説以上に登場人物が操り人形化してしまうのも已むを得ないが、昔の文芸批評家ふうの言い方をすれば「人間が描けてない」。
 だから今度の島田作品もちょっと危ぶんだのだが、原型の5倍近くにふくらませて、ほとんど完全な新作になっている。読後にTV版を視た感じでは、そのまま小説化していれば、いわゆるバカミスに近くなっていたかも知れない。
 しかし事件の骨格はほぼ同じでも、血まみれで爛れたような両眼をゴーグルに隠した男が出没するのが、TV版では正体不明の異形として街をおびやかすだけなのに対して、小説版では、或いはこういう来歴をもった哀しい存在なのではないかと暗示される。事件よりそちらのほうに読みどころがあると言っていい。また、この部分を真摯に受け止めるなら、読者はみんな原発反対論者になるだろう。
 しかし、そうした生硬な社会派推理でもない。島田作品はちょっと重厚で難解で、と尻込みする人にも快速で読める物語性豊かな一篇なのだ。ストーリーテラーぶりが強く発揮されてきたのは、最近の島田荘司にけざやかな傾向であるように思う。
 たとえば昨年話題となった『写楽 閉じた国の幻』は、名探偵神津恭介が入院中の退屈まぎれに源義経=ジンギスカン説を証明する高木彬光『成吉思汗の秘密』に倣って、御手洗潔のベッド・ディテクティヴに仕立てることも可能だっただろう。むしろそのほうが、写楽の正体探しにすっきり焦点が絞れたのではないか。しかしあえて探偵としてはアマチュアを主人公におき、彼が転落してゆくアンチ・サクセスストーリーが(『秋好英明事件』といったノンフィクション・ノヴェルでも読ませるものになっていたように)抜群のうまさだ。そして逆境を脱するためには、何が何でも写楽の謎を解かねばならないという切迫感が与えられる。同じ結論を出してもそれが御手洗なら、単なるディレッタンティズムになってしまう。実際に書かれた形のほうが、写楽以外の謎に未解決部分が残る破綻はあっても、より読者の胸をゆさぶるのだ。
 トリックやアイデアを核にしていても、まず物語をという姿勢は、これも新潮社より4月に出た連作短篇集『進々堂世界一周 追憶のカシュガル』からも窺われる。ここでは御手洗の京大医学生時代が描かれるが、高木彬光の『わが一高時代の犯罪』もどきに三高時代の犯罪が扱われるわけではない。さらに若き日に御手洗が世界放浪していた際の見聞が主に語られる。島田氏は高木氏の影響下に出発したが、もはや完全に卒業していると改めて感得されよう。
 ゴーグル男が流す血の涙は、TV版のようにトリックとしてだけ見れば、なんだか滑稽だ。だが小説版では、謎が解かれたあとも不気味ながら哀しい男の残像が消えない。深夜、読者が道を歩いていて、ふと疾走するゴーグル男の幻を見るとしたら、それこそトリックを超えた物語の力なのだ。

(しんぽ・ひろひさ ミステリ評論家)
波 2011年11月号より
単行本刊行時掲載

判型違い(文庫)

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