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右肩上りの時代と羨むなかれ。戦前生れ歴史作家が綴る、郷愁(ノスタルジー)無用の昭和回顧録!

昭和からの伝言

加藤廣/著

1,760円(税込)

本の仕様

発売日:2016/08/22

読み仮名 ショウワカラノデンゴン
雑誌から生まれた本 新潮45から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 286ページ
ISBN 978-4-10-311036-1
C-CODE 0095
ジャンル ノンフィクション
定価 1,760円
電子書籍 価格 1,408円
電子書籍 配信開始日 2017/02/03

僕らは絶望のトンネルをひた走った。出口があることを信じて——。B29の来襲に逃げ惑った少年期、体重32キロで挑んだ大学受験、国の威光を笠に着た役人との耐久レース、中小企業に寄添って歩んだ金融マン時代、組織に呆れ果てての脱サラ……。ノスタルジーに彩られた偽りの昭和史から現代人を解き放つ、覚醒のドキュメント!

著者プロフィール

加藤廣 カトウ・ヒロシ

(1930-2018)1930年、東京生れ。東京大学法学部卒。中小企業金融公庫、山一證券等を経て経営コンサルタントに。2005年、長編時代小説『信長の棺』を引っ提げて文壇デビュー、小泉元首相の絶賛を浴びるなど話題を撒いた。『秀吉の枷』『明智左馬助の恋』に至る「本能寺三部作」はいずれもベストセラーに。『謎手本忠臣蔵』『空白の桶狭間』『利休の闇』『水軍遥かなり』等の歴史時代小説の他、『信長軍団に学ぶ処世の法則』『黄金(きん)の日本史』『戦国武将の辞世』等、新書・実用書の著作も多い。2018年4月没。遺作として『秘録 島原の乱』が同年に刊行されたが、『家康に訊け』はそれに続く最後の作品である。

目次

第1章 戸山ケ原ノスタルジア
「昭和」が誤解されている/着るもの食べるもの/糞尿の香りの町・高田馬場/モダンガールを母に持って/「胸のつかえが下りた」対米開戦
第2章 都心で見届けた戦争のリアリティ
母の自由主義教育/戦時教育と兄の変身/気象台でこっそり聴いた米軍のラジオ放送/空襲を生き延びた夜のこと
第3章 八月十五日の「不敬」な行動
気象台への謎の通信文/ヤンキーを見物するために日比谷へ/兄の死
第4章 空腹と受験戦争
ひもじさの果てに奨学金を得る/「秀才」がゾロゾロと/父の墓前に東大合格を報告/十年ぶりの友との再会
第5章 大学は動乱の巷
ラムール・プルミエール/試験ボイコットの夏
第6章 揺れ動く学問とギリシャ政治哲学と
駅頭の傷痍軍人を避けながら/はぐらかされてばかりの講義/明治維新論で「不可」を喰らう
第7章 昭和の活力に接する職場へ
就職難と本田技研/金融マンとしての第一歩/反薩長の系譜に触れる
第8章 因襲との戦い
「ケアレスライス会」計画/株式投資で稼いだ日々/お役所仕事の不毛あれこれ/「コップの中の嵐」の物語/神楽坂の屈辱
第9章 角栄ブルドーザーとの出会い
新総裁に呼び出され/再び手の平を返す人々/虫の知らせ――母の死/目白御殿にて
第10章 ポータブルスキルを携えて独立へ
会社に無断でアメリカへ/イスラエルで目撃したこと/インド人程度の言うことなど聞くな/独立を決行す/中小企業とスクラムを組んで
第11章 日本の自壊を食い止めるために
「地平かに天成る」/「相克」の時代/面従腹背のススメ/無責任体制を打破するには/学問は枯れマスコミがビビる

インタビュー/対談/エッセイ

郷愁(ノスタルジー)のみでは語れない実感的昭和史

加藤廣

 従来の「昭和史もの」にずっと違和感を覚えてきたという著者に、本書執筆の背景について訊いた。

――近年、日本の素晴らしさを讃えるテレビ番組が目立つようになりましたね。自画自賛というか。
加藤 国力が相対的に低下しだすと、この国はそうなるんです。何だか私の少年期と似たような気配。戦前のGDPのピークが、私が十歳の昭和十五年。日本が経済的に怪しくなってから国民の間にこういう空気が満ちてきたかと思ったら、アメリカ相手に大戦争……。

――ご母堂をママと呼んでいたら、近所の人たちが押し寄せて来て、敵性語を使うなと申入れた話が印象に残っています。
加藤 だから戦後すぐ、ママと呼べるようになってホッと一安心。だけど大学教育の現場が、一転して民主主義を叫んで左翼思想に染まったことには閉口しました。自分たちがそれまで何を教えてきたかについては頬かむりして。「転向」という言葉はもはや死語になりましたが、上の意向、当時はGHQですが、それが変わったら民間も即転向する。こうした日本人の過剰適応というやつは、今も昔も変わりませんね。

――昭和というと、必ずノスタルジーとともに語られる風潮になりました。活力に満ちていたとか、右肩上りを信じられた時代が羨ましいとか。
加藤 それは、たまたま起きた朝鮮戦争による特需があって、日本が高度成長期を体験できた、その結果に過ぎません。当時の日本人はひたすら無我夢中だった。それを後になってノスタルジーめかして語られても、私にはどうもピンと来ない。

――それでも、戦前に加藤少年が過ごした高田馬場の風景は郷愁をそそります。
加藤 高田馬場には農業用の大きな肥溜めがあってね。それが酷く臭うわけですよ。だから地価も安かったんです。近所の戸山ケ原には広い空地があり、凧揚げをしてよく遊んだものです。今からは想像もできないでしょうが。

――ご母堂が作中にしばしば登場されますね。
加藤 私の母は東洋英和の出で、いわゆるモダンガール。家に、社会主義者やインド独立の闘志なんかをよく匿っていたものです。母の旧友たちが集まって茶話会がしばしば開かれ、私も分からないながら耳学問をしたものでした。満州事変勃発についての内緒話なんかは、今でも耳に残っています。

――さて、中小企業金融公庫に就職されてから、進取の精神を発揮して、旧弊を打破する様々な改革を提案しておられますが、そのため国の威光を笠に着たような上司とさんざんぶつかり、再三窮地に立たされたようですね。
加藤 どの職場でもそれは同じでしょうが、改革派は必ず壁にぶち当たる。だけど政府系の機関では、民間のためよりも組織防衛の方が優先されるから手に負えない。私も何度やめてやると叫んだことか。たんに作業の効率化を図っただけなのですが、幹部たちに神楽坂の料亭に呼び出されて吊るし上げを喰った。その夜のことは今でも忘れられません。その後、上層部が交替したことで立場が逆転するんだけれど、そうなればなったで、加藤さん、私も実は同じ意見だったんですよとおべんちゃらを言ってくる奴が後をたたなかった……。

――そのお話からも、日本は中小企業の育成を怠ってきたのかも知れないという印象を強く持ちました。
加藤 アメリカではオバマの政策を見ても分かるように、スモール・ビジネスの起ち上げと育成に国家が手を貸す仕組みがある。日本では、消えゆく中小企業の技術力に今頃になって危機感を抱いた程度にすぎない。この国では特許や資金面その他もろもろに於いて大企業に有利に出来ている。何につけ国策優先なんです。今やグローバル企業の代表格である本田技研が、かつて自動車産業に参入しようとした時だって、当時の通産省はそれを阻止しようと躍起になった。役所の保守体質は、この目でいやというほど見ましたよ。

――脱サラされ、念願の小説家となられたわけですが。
加藤 母の影響で英語には自信があった。こうしたポータブル・スキルを身につけてきたことで、脱サラに踏み切れた面もあります。今、正社員での採用が減ったとか年功序列制度が崩れたとか騒いでいるけど、戦前はそんな悠長な雇用状況じゃなかった。若い人たちには語学プラス何らかのスキルを持って、将来独立することを視野に入れてほしいものです。


(かとう・ひろし 作家)
波 2016年9月号より

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