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しゃばけ

畠中恵/著

693円(税込)

発売日:2004/03/28

  • 文庫
  • 電子書籍あり

えっ、虚弱な若だんなと妖怪コンビが猟奇事件を解決!? 日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作。

江戸有数の薬種問屋の一粒種・一太郎は、めっぽう体が弱く外出もままならない。ところが目を盗んで出かけた夜に人殺しを目撃。以来、猟奇的殺人事件が続き、一太郎は家族同様の妖怪と解決に乗り出すことに。若だんなの周囲は、なぜか犬神、白沢、鳴家など妖怪だらけなのだ。その矢先、犯人の刃が一太郎を襲う……。愉快で不思議な大江戸人情推理帖。日本ファンタジーノベル大賞優秀賞。

  • 受賞
    第1回 吉川英治文庫賞
  • 受賞
    第13回 日本ファンタジーノベル大賞 優秀賞
  • 舞台化
    ミュージカルしゃばけ(2017年1月公演)
  • 舞台化
    しゃばけ(2013年4月公演)
  • テレビ化
    しゃばけ(2007年11月24日(土)放映)

書誌情報

読み仮名 シャバケ
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
頁数 352ページ
ISBN 978-4-10-146121-2
C-CODE 0193
整理番号 は-37-1
ジャンル 文芸作品、歴史・時代小説
定価 693円
電子書籍 価格 693円
電子書籍 配信開始日 2020/04/03

インタビュー/対談/エッセイ

しゃばけとアニメとパンデミックと[後篇]

伊藤秀樹榎木淳弥

大好評配信中のしゃばけアニメについて、伊藤監督と主演の榎木氏が語る!(前篇はこちら

小説をアニメ化するということ

榎木 20周年記念アニメ「しゃばけ」は、しゃばけファンの皆さんにも大好評で、かつての読者が戻ってくるきっかけにもなっているとか。

伊藤 いつもは批判されることが多いんだけど(笑)、今回は珍しくいろんな人に褒めてもらいました。

榎木 それは嬉しいですね。

伊藤 なかでも今回編集をお願いした瀬山武司さんが褒めてくださったことで、「ああ、これはそんなに大きく間違ってはいなかったんだな」と安心しました。瀬山さんはアニメ「アルプスの少女ハイジ」で編集をされていた方。僕にとってテレビアニメの理想は「ハイジ」だったので。

榎木 それはすごい。やはり原作ものだと、「間違っているかどうか」というのは気になりますか?

伊藤 はい、特に「しゃばけ」シリーズのように多くの人に愛されている作品は、原作の「空気感」を壊さないように気を付けます。榎木さんは原作の存在は意識するほうですか?

榎木 もちろん事前に目は通しますが、「原作はこうだから」と固定観念を持たないよう、台本に書かれていることがすべて、と思って演じています。

伊藤 声優は、描かれた世界をより豊かに膨らませることが仕事ですからね。

榎木 原作が漫画か小説かによって絵を作る上での違いはありますか?

伊藤 小説のほうが難しいのは確かです。ただその分面白いですね。漫画のアニメ化は技術力を供与するだけ、と思う時もありますが、小説には自分の想像が入り込める余地がありますから。

榎木 なるほど。

伊藤 小説を絵に起こすときには、行間を読む力が試されますが、その力は誰にでもあるわけじゃない。どう考えても悲しい場面なのに、薄ら笑いを浮かべた絵を描いてきてしまうアニメーターもいるぐらいで。

榎木 行間を読む力は、どうやって身に付けたらいいんでしょう。

伊藤 ぼくは高校生の頃からアニメーターになると決めていたので、授業はサボって図書室で谷崎潤一郎林芙美子などをたくさん読んでました。その経験が役に立ったのかな。いまも本が好きで、職場が三鷹なので太宰熱も再燃しています。

榎木 読書が大事なのですね。読解力は役者にとっても必要です。セリフの一つ一つに自分の解釈が反映されてしまうので。

「知的で野蛮」なジブリの先輩たち

榎木 最近はパンデミックの影響で、アフレコの風景も変わりました。スタジオの人数制限で、一人ずつの録りになってしまうことが多いんですよね。

伊藤 榎木さんのような人気声優の方は忙しすぎるので、スケジュールが合わないという問題もありますし。

榎木 ですが今回は一人ではなく、仁吉役の内山昂輝くん、鈴彦姫役の金元寿子さんと掛け合いで演じることができたのがよかったです。

伊藤 もちろん皆さんプロフェッショナルだから、一人で録っても水準以下になることはないけど、掛け合いの中で予期せぬプラスアルファの効果が生まれることがあるんですよね。

榎木 屏風のぞき役の木村良平さんは一人のアフレコでさびしかったかも(笑)。制作の現場ではどうですか?

伊藤 パンデミック以降、制作スタジオに人が集まらなくなってしまったことに困っています。アニメーターってもともと引きこもりがちなんです(笑)。デジタル作画なら家にいてもできますが、スタジオで先輩から学んだり、熱気を体験したり、ということが大切なのに。

榎木 それは残念ですね。

伊藤 僕はアニメーターとして最初にスタジオジブリで仕事を教わったのですが、あの人たちの佇まいに学ぶことが多かったんです。知的でありながら野蛮な。あれはまさに「薫陶」でした。

榎木 想像できるような(笑)。

伊藤 野蛮を通り越してときに凶暴になることも(笑)。仕事をはじめて覚えたときに彼らの凄みのようなものを目の当たりにしたのが、自分の芯になったような気がします。

榎木 役者も同じで、先輩の芝居が現場で見られないのは、若い人にとっては苦しいだろうな、と思います。打ち上げもないですし。

伊藤 制作側と声優との交流も今は難しいですね。アニメ「夏目友人帳」のときは、夏目役の神谷浩史さん、ニャンコ先生役の井上和彦さんと打ち上げで話したことで、すごく人として尊敬できる、とか、芝居をただ楽しみに見ていられるという信頼感が増していきました。スタジオで録ったものを聴いているだけじゃ、そこまではわからない。

榎木 仕事以外の話もできる場というのは、本当に大切ですよね。

伊藤 ただコロナ禍でも不思議なことに、アニメの製作本数自体は増えているんです。

榎木 それは僕も実感しますね。

伊藤 20年ぐらい前は週20~30本で「作りすぎ」と言われていたのですが、今は週100本ぐらい作られている。

榎木 がんばりすぎなのかも(笑)。

伊藤 企画の本数にたいして、才能の数は限られている。アニメ業界は永久に人手不足なんですよ(笑)。

(いとう・ひでき アニメーション監督)
(えのき・じゅんや 声優)
波 2022年1月号より

大好評配信中のしゃばけアニメについて、伊藤監督と主演の榎木氏が語る![前篇]

伊藤秀樹榎木淳弥

「若だんな」というキャラクター

伊藤 若だんなは複雑なキャラだから、演じるのは難しかったでしょう。

榎木 そうですね。最初のテイクではちょっと元気が良過ぎたのですが、監督のアドバイスで病弱な部分はより病弱に、対決場面ではより力強く、とメリハリが出るようにしました。

伊藤 一太郎はたおやかな印象を与えるけれど、芯にはものすごく熱く強いものがある。その相反する要素を表現しなければならないんですよね。

榎木 3分という短いアニメなので、普通は30分のアニメで表現するものをなるべく凝縮して伝えようと心がけました。

伊藤 とても陰影のある芝居をしていただき、榎木さんの「一太郎」になっていました。本当に良かったです。

榎木 ありがとうございます。監督は「しゃばけ」シリーズはもともとご存じだったのですか?

伊藤 自分でも意外ですが、実は全然知らなかったのです。20年も続く有名なシリーズなのに。

榎木 僕は同じ畠中恵先生原作の『つくもがみ貸します』のアニメ化でも主人公の清次を演じていたので、作品のことは知っていたのですが、読むのははじめてで。とても親しみやすいお話ですよね。

伊藤 そうですね。でも、アニメ化のお話をいただいてから絵コンテを描くまで時間の余裕がなかったので、楽しみつつも必死で読んでいました。

榎木 今回は第一作『しゃばけ』だけではなく、シリーズの様々な作品の名場面が入ったアニメになっていますよね。相当読み込まれましたか?

伊藤 原作を読みながら「これは映像化するのは楽しそうだ」と思いつつ、気になった場面にどんどん付箋をつけて構成案を考えていきましたが、取捨選択に悩みました。

榎木 監督が一番力を入れたシーンはどこでしたか?

伊藤 「おまけのこ」で鳴家が川の主の鯉に出会う場面ですね。あそこは一生懸命描きました。それと、『うそうそ』の弁財船の場面も描いていて本当に楽しかった。江戸時代の船の構造って面白いんですよ。実は昔、大工をやっていたこともあって、船大工になりたいなあ、と思いながら描いていました(笑)。

榎木 それは意外でした(笑)。どれもほんの一瞬の場面でしたよね。

伊藤 いまは無くなってしまった江戸の風景、というものに憧れがあるんですよね。本当はトキの群れなんかが飛んでいたんじゃないかな、などと想像しながら描くのは楽しかったです。

アニメーションと時代もの

榎木 アニメで時代劇って、実は珍しい。時代考証などは相当苦労されたのではないですか?

伊藤 歴史時代ものを手がけるときは、資料に当たるのが楽しくもあり大変でもあり。特に江戸時代は資料が山ほどあるので。だから時間との勝負で、どこかで踏ん切りをつけなくてはならないんです。『しゃばけ』では、以前『四谷怪談』のアニメをやったときの蓄積がものを言いましたが、はじめてだったら大変だったと思います。

榎木 なるほど。でもアニメには自由さもありますよね。『つくもがみ貸します』は江戸時代が舞台ですが、清次の髪型はざんぎり頭で、他にも現代風のアレンジが加えられていました。

伊藤 畠中先生も何かのインタビューでおっしゃっていたと思うのですが、きちんと時代考証をしつつ、どこまで現代的な要素を入れるか、というバランスが本当に難しい。というのも、本気で江戸時代を再現しようとすると、現代の読者には理解できない、違和感のある作品になってしまうんですよ。

榎木 そのバランスが、今回のアニメーションでは原作に忠実になっていると思いました。

伊藤 原作の柴田ゆうさんの装画は、柔らかく簡素に描かれていますが、裏にしっかりとした考証と意志があります。僕も当時の衣装や鳥山石燕の画など資料にいろいろ当たりましたが、柴田さんの絵がそうしたものを踏まえていたので、「結局これでいいのか」と(笑)。演じる側としては時代を意識されたことはありますか?

榎木 ダミ声で巻舌風に「てやんでぃ」とか、いわゆる「江戸時代っぽさ」は出さず、作り込まないようにしました。

伊藤 確かに自然な喋り方でしたね。

榎木 YouTubeで100年前の人々の会話音声が聴けるんですが、言葉遣いこそ昔風だけど、発声の仕方は変わらない。だから江戸時代の人もそうだろう、と。勝新太郎の「座頭市」を見たことも大きかったですね。変に作らない演技が印象的でした。

伊藤 なるほど。勉強されているんですね。狭き門をくぐりぬけただけあって、最近の声優さんは皆さん本当に上手です。

榎木 皆、勉強熱心ではありますね。僕も役者仲間数人で、メソッド演技論など芝居に関する本を読んで意見交換をしたり、学んだことをトレーニングとして実践したりしてます。役に立つ立たないはありますけど(笑)。

伊藤 人気と実力があるのに常に努力していて、素晴らしいですね。

榎木 競争社会ですから(笑)。

後篇はこちら

(いとう・ひでき アニメーション監督)
(えのき・じゅんや 声優)
波 2021年12月号より

コラム 新潮文庫で歩く日本の町

宮崎香蓮

 畠中恵先生原作の舞台「若様組まいる」(天王洲銀河劇場八月七日~十四日)に出演させて頂きます。明治二十年の東京で、旧旗本の若様たちが巡査になろうと思い立って教習所に入ってきます。そこには官軍だった薩摩組や、慶喜について行った静岡組、平民組などがいて軋轢も起きる中、ある事件が……。私は、主人公が恋ごころを寄せる大商家のお転婆お嬢様役。
 そんなご縁があって、手にしたことがなかった畠中さんの超人気作『しゃばけ』を読んでみたのですが見事にハマりました!
 シリーズ累計七百万部(!)を超えるという作品を今更紹介するのもアレですが――江戸の大きな廻船問屋兼薬種問屋・長崎屋の若だんな一太郎はめっぽう体が弱く、両親からは「大福餅の上に砂糖をてんこ盛りにして、その上から黒蜜をかけたみたい」に溺愛され、さらに手代たち(正体は犬神や白沢はくたくといったあやかしたち)に守られてもいる。ある夜、こっそり外出した一太郎は人殺しを目撃してしまうが……。
 なぜ一太郎は妖たちと喋ったりできるのか? そんな疑問の湧く間もなく(この謎は後で解かれます)、するすると作品世界へ入りこんでしまいます。時代はハッキリしないのですが、いかにも江戸らしい空気感や、今も残る地名がいくつも出てきて(物語の冒頭で一太郎は殺人を目撃した湯島聖堂前から坂を過ぎて昌平橋、筋違橋御門すじかいばしごもん前、須田町を通り、日本橋を渡って道なりに長崎屋まで帰っていく)、気分はファンタジーというよりリアルな時代小説そのものに見えます。江戸の人びとは妖(屏風のぞき、鳴家やなり、野寺坊など沢山登場します)の存在を信じていたかもしれず、そう考えるとこの小説は妙な具合にますますリアルな感じで迫ってきます。
 そして私は池波正太郎さんの『剣客商売』の時と同様、この柔らかな世界に浸っていたくなりました。〈ここ、好き〉という感覚。小兵衛やおはるがいる世界に住みたくなるように、一太郎や佐助(犬神)や仁吉(白沢)がいる家に泊りたくなります。この読者を巻き込み、もてなす力が凄い。
 そしてやはり池波さんと同じく、畠中さんも人生の苦いところを味わわせてくれます。長崎屋の北隣にある菓子屋・三春屋の跡取り息子栄吉は一太郎の親友ですが、菓子作りが苦手で、悩んでいます。決して仲違いをしたり返事を求めたりする口調でなく、栄吉は告げます。「(一太郎が)うらやましくてたまらないんだよ。(略)おじさんは、仕事をしないからってお前を叱ることはないんだろう?」。
 栄吉の悩みを理解しながらも、一太郎は「大笑いの発作を起こしそうになった。店ではたびたび小言が降ってくる。ただしそれは、張り切って仕事をしようとすると、言われるのだ。父が、母が、妖達が一太郎の指先から仕事を大急ぎで取り上げてゆく。(略)何もできない幼子のような気分になってたまらないと、そう目の前の幼馴染みに言えたらと思う。(略)贅沢な考えだと言われるのがおちだった。まったくそのとおりだと、一太郎自身、そう思っているのだから。/笑い出したいのか、泣き言を言いたいのか、喉の奥が震えて返す言葉が出ない」。こんな繊細な心を持った主人公(と親友たち)のいる世界だから、浸っていたいのです。


(みやざき・かれん 女優)
波 2016年7月号より

どういう本?

一行に出会う

今は一太郎が決めなければならない時なのだ。(本書286ぺージ)

著者プロフィール

畠中恵

ハタケナカ・メグミ

高知県生れ、名古屋育ち。名古屋造形芸術短期大学卒。漫画家アシスタント、書店員を経て漫画家デビュー。その後、都筑道夫の小説講座に通って作家を目指し、『しゃばけ』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。また2016(平成28)年、「しゃばけ」シリーズで第1回吉川英治文庫賞を受賞する。他に「まんまこと」シリーズ、「若様組」シリーズ、「つくもがみ」シリーズ、『アコギなのかリッパなのか』『ちょちょら』『けさくしゃ』『うずら大名』『まことの華姫』『わが殿』『猫君』『御坊日々』『忍びの副業』などの作品がある。また、エッセイ集に『つくも神さん、お茶ください』がある。

畠中恵「しゃばけ」新潮社公式サイト (外部リンク)

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