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誰にだって忘れられない味がある。身も心も温まる、食卓をめぐる7つの物語。

あつあつを召し上がれ

小川糸/著

432円(税込)

本の仕様

発売日:2014/05/01

読み仮名 アツアツヲメシアガレ
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-138341-5
C-CODE 0193
整理番号 お-86-1
ジャンル 文芸作品
定価 432円

この味を忘れることは、決してないだろう――。10年以上つきあった恋人との、能登へのお別れ旅行で味わった最高の朝食。幼い頃に、今は亡き母から伝授された、おいしいおみそ汁のつくり方。何年か前に家族みんなで並んでやっとありついた、天然氷でつくった富士山みたいなかき氷……。ときにはほろ苦く、ときには甘く優しく、身も心も温めてくれる、食卓をめぐる7つの感動の物語。

どういう本?

タイトロジー
(タイトルを読む)
 乾杯、と山下は声に出してそう言ったが、私には何に対しての乾杯なのかさっぱりわからない。お別れの? 私の三十代最後の夜の? 明日でもうこの人と会えなくなるということが、いまいち実感としてわいてこなかった。十年以上一緒にいて、ほとんど空気のような存在になっている。恋愛感情というのとは少し違うけれど、薄くて甘い砂糖水のようなもの。それを、私の中から完全に払拭することは、まだできていない。
「あついうちに召し上がってください」
 いきなり目の前に登場したのは、松茸のフライだ。口に含むと、サクッという音と共に、松茸特有のふくよかな香りが広がる。もしかしたら、別れを目前にして、松茸なんか食べても、味も香りもわからないんじゃないかと不安だった。でも松茸は、ちゃんと松茸の味がした。(本書54〜55ページ)
一行に出会う うまい物を食うと、本当に子供みたいな顔になるね。(本書38ぺージ)

著者プロフィール

小川糸 オガワ・イト

1973(昭和48)年生れ。著書に小説『食堂かたつむり』『喋々喃々』『ファミリーツリー』『つるかめ助産院』『リボン』『にじいろガーデン』『サーカスの夜に』『ツバキ文具店』、絵本『まどれーぬちゃんとまほうのおかし』、エッセイ『ようこそ、ちきゅう食堂へ』『こんな夜は』『たそがれビール』『犬とペンギンと私』などがある。『食堂かたつむり』は、2011(平成23)年にイタリアのバンカレッラ賞を、2013年にはフランスのウジェニー・ブラジエ小説賞を受賞した。

糸通信 (外部リンク)

書評

1cm以内の物語

夢眠ねむ

 夏になると新潮文庫にそわつく自分がいる。
 読書感想文をどの本で書こうか、と本屋を覗くのは夏休みの風物詩であった。
 あれも読みたいこれも読みたい、推薦図書は誰かと被っちゃうかなぁ、など悩むことが多い中で「新潮文庫の100冊」の棚にはかなりお世話になった。そこから更に1冊に絞り込むためウンウン唸って選んだ記憶がある。
 今でも「新潮文庫の100冊」のポップを見ると夏が来たなぁ~としみじみして、気付くと数冊抱えて帰る、そんな読書感想文のない夏も幾度となく過ごしている。
 私が文庫を買うとき、というのは「好きな単行本が満を持して文庫化されたので持ち運べる喜び」パターン、「タイトルと概要は知ってるけど未読なので読んでみよう文庫なら気軽だし」パターン、「今から旅行なんだけど空港や駅でつい本屋に寄ったら案の定読みたい本がある」パターンに分かれる。
 前者2つは厚みを気にせず買うのだが、最後の1つはそうはいかない。なぜ厚みを気にしているかというと、既に家から積読を数冊持ってきているのだ。この時点で重い。なんなら、たんまりダウンロードしてある電子書籍もある。それに、あまりにも長い作品を読み始めてしまうと途中で閉じられず、車窓から見える景色などそっちのけになってしまい、酷い時は二宮金次郎スタイルでも読みたくなってしまうほど集中してしまうので旅に向かない。
 ここで私は自分にルールを課す、旅先で買ってもいいのは「1cmまでの文庫」。
 今回は旅に連れて行った、1cm以内にぎゅっと詰まった文庫を紹介しようと思う。

 小川糸『あつあつを召し上がれ』、7mm。

小川糸『あつあつを召し上がれ』

 短編が7編収録されている。私は食べ物関連の作品に目がないのだが、小川糸さんの作品に出てくる食べ物は温度まで伝わる。まさにタイトル通りにあつあつ。しゅうまいの描写に口の中はホフホフし、ポトフがじんわり沁みる。“美味しそう”を突き詰めた感覚である官能も感じられてドキリとする。私の人生の節々にも象徴的な食べ物があるが、こうしてチャプターごとに食べ物がある人生をおくれるのは幸せだ。たとえそれがしょっぱい失恋でも、苦い別れでも。

 吉本ばななキッチン』、7mm。

吉本ばなな『キッチン』

 私が紹介するまでもない、刊行から30年以上が経った今も愛され続ける作品。旅行というインスタントな孤独とこの作品の主人公が置かれている環境は全くもって比べ物にならないけれど、ここではないどこかへ引き離されて自分が浮き彫りになっている時に似合う。死と、生に、当たり前にしっかり向き合うこと。今日も自分でいること。キッチンは孤城であり、愛を育む舞台だ。
 読むたびに心に残る言葉があるけれど、今回読み返して響いたのは「人はみんな、自分の気持ちの面倒は自分でみて生きているものです」。

サン・テグジュペリ『星の王子さま』

 最後に、私が新潮文庫で何度も繰り返し買った本。サン=テグジュペリ星の王子さま』。
 なんで何度も買う必要があるのかと思われるかもしれないが、私にとって星の王子さまこそ旅先で読みたい1冊だ。
 はじめて自分の計画で旅に出た時、肩から斜めがけするちょっと大げさなブックカバーに収めたのがそれだった。そこから私にとって旅に出る時に持って行く本となった。読みたくなるとその都度買う。持ち歩くし、プレゼントするし、なくす、となるとまた手元からなくなる。
 本当は1冊を丁寧に大事にすべきなのだけれど、なぜか星の王子さまだけは何度も買っている。今回も、星の王子さまは何mmかなと本棚を探したら見当たらなかった(そんなはずないのに!)。最寄りの本屋に行き、新潮文庫の棚を見る。必ずと言っていいほどちゃんとそこにある星の王子さまを購入し、測ってみるとちょうど1cmだった。

 小さいカバンに1cmの厚みを忍び込ませて今日も出かける。この夏はどこへ行こうか。

(ゆめみ・ねむ 書店店主・元でんぱ組.incメンバー)
波 2019年7月号より

目次

バーバのかき氷
親父のぶたばら飯
さよなら松茸
こーちゃんのおみそ汁
いとしのハートコロリット
ポルクの晩餐
季節はずれのきりたんぽ
解説 松田哲夫

判型違い(書籍)

まとめテーマでくくる 本選びのヒント

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