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初ものがたり

宮部みゆき/著

649円(税込)

発売日:1999/08/30

  • 文庫

鰹、白魚、柿、桜。「初もの」がらみの難事件、さらりと解けるか茂七親分──。八百八町のミヤベ・ワールド!

鰹、白魚、鮭、柿、桜……。江戸の四季を彩る「初もの」がからんだ謎また謎。本所深川一帯をあずかる「回向院の旦那」こと岡っ引きの茂七が、子分の糸吉や権三らと難事件の数々に挑む。夜っぴて屋台を開いている正体不明の稲荷寿司屋の親父、霊力をもつという「拝み屋」の少年など、一癖二癖ある脇役たちも縦横無尽に神出鬼没。人情と季節感にあふれた時代ミステリー・ワールドへご招待!

  • テレビ化
    茂七の事件簿 ふしぎ草紙(2024年4月再放映)

書誌情報

読み仮名 ハツモノガタリ
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
頁数 304ページ
ISBN 978-4-10-136920-4
C-CODE 0193
整理番号 み-22-10
ジャンル 歴史・時代小説、文学賞受賞作家
定価 649円

書評

罪つくりな新潮文庫

林家正蔵

 この原稿の御依頼を頂いた時は、嬉しくもあり、有難くもあり、戸惑いもあり、とはいえ少々面倒なので、困ってしまった。そりゃそうでしょう。新潮文庫の中から好きな本を三冊だけ選ぶだなんて。
 一冊なら、儘よ、これだ、で決めてしまうし、十冊となればダラダラと、いろんなジャンルからチョイスもできる。三冊とはなんとも選者泣かせだし、読者諸氏には、きっとどの本を並べたかで、こいつはどんなセンスをしているのか、お里が知れてしまう。
 かくいう私も実際他の人が選んだものには、本に限らず、映画・ジャズのCD・旨いラーメンに至るまで、つい茶々を入れてしまう。ひねくれ者だ。しかし、待てよと留まったのは、今まで私は新潮文庫を通してどんな本に出会い、心揺れ、ときめき、知的快楽や感動を貰ったことか、改めて確かめたくなったからだ。そこでこうして筆をとった。
 それでも多い。気が遠くなるほどのタイトルを前にして、ふと思いついたのだが、以前より仲良くして頂いている担当のT氏にチョイスしてもらい、まず二十冊に絞ってもらった。氏曰く、私の読書傾向を探っての勘を頼りの作業とのことだったが、見事に的中。あら懐かしや、そうそうコレコレ。記憶の中に埋もれてしまった名作を見事に掘り出して頂きました。少々枕が長くなりましたが、本題に入ることに致します。
 宮部作品との出会いは、山本周五郎賞受賞作『火車』からだ。やられました、ガツーンと。おいおい犯人が来るぞ! ハイ、おしまい。エーッ。お見事。こんなミステリー読んだことがない、凄い作家に出会った、という胸のざわつきは未だに忘れがたい。それ以来宮部ワールドの虜となる。ミステリーでも、いわゆる時代物は、江戸噺を飯の種としている商売柄、お勉強のつもりで己の腹に、お江戸の街・人・風俗・食べものを納めてみようと本を手にするのだが、ついつい作者のおりなす物語にひきこまれ、気がつけばお勉強の間もなく、満足して読了してしまっている。『本所深川ふしぎ草紙』は吉川英治文学新人賞の受賞作でもあり、噺家の本好きの間では、ゆるぎない名作といわれているが、愛しさでは本作『初ものがたり』が上回ってしまった。
 稲荷寿司屋台の親父の正体は? 梶屋の勝蔵との因縁は? 日道坊やはどうなるのか? 霊視の力は本物か?――等々のモヤモヤが山積しているのだが、それをさっぴいても、おもしろい。また登場する江戸の味覚の数々。食いしん坊にはたまらず、また香り立つ江戸言葉に舌鼓ならぬ“目鼓・耳鼓”を打ちたくなる。
 宮部作品は、長編もよいが、短編における小股の切れあがった仕上がりも素晴らしく、感に堪えない。そして本編を読み終えてからのお楽しみが「新潮文庫版のためのあとがき」である。“このたび……”からはじまる、まるで口上口調の文体には、筆者ならではの気持ちとユーモアが混在しており、後味まことによし。
 このようなおまけは、文庫ならではである。宮部先生におかれましては是非に続編をお願いしたい。

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 年間いくつもの新訳ミステリーを読んでいると、次から次へと世の中に出版される新刊にふりまわされ、名作をふたたび手にする機会がなかなかなかった。久し振りに本作(『郵便配達は二度ベルを鳴らす』)を読み、さすが永遠のベストセラーという帯のキャッチにいつわりはなかった。おもしろい! 色褪せないそのストーリー展開。そしてなにより田口俊樹氏による満を持しての訳の妙。
 先日、『日々翻訳ざんげ』という田口氏の著書を読んだばかりで、その中で巻頭の頁に本作品の歴代翻訳の違いが列記されていた。いずれも訳者の味わいが異なっている処にとても興をそそられた。
 田口氏の訳でこの不朽の名作が世に出るのはまことに嬉しく、またしばらくしてから今一度楽しみたいと思わずにはいられない。もちろん訳者あとがきは必読である。

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さよならバードランド』はジャズマンの回想録であり、先年亡くなられた和田誠氏によるミュージシャンのイラストも素晴らしい。画から音が聴こえてくるようだ。巻末の訳者(村上春樹)による「私的レコード・ガイド」にジャズファンは感涙する。

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 もう三冊あげてしまった。『羊たちの沈黙』、『絶対音感』、『チャイルド44』と他にも……あー、この頁は罪つくりだ。

(はやしや・しょうぞう 落語家)
波 2021年8月号より

著者プロフィール

宮部みゆき

ミヤベ・ミユキ

1960(昭和35)年、東京生れ。1987年「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞。1989(平成元)年『魔術はささやく』で日本推理サスペンス大賞を受賞。1992年『龍は眠る』で日本推理作家協会賞、『本所深川ふしぎ草紙』で吉川英治文学新人賞を受賞。1993年『火車』で山本周五郎賞を受賞。1997年『蒲生邸事件』で日本SF大賞を受賞。1999年には『理由』で直木賞を受賞。2001年『模倣犯』で毎日出版文化賞特別賞、2002年には司馬遼太郎賞、芸術選奨文部科学大臣賞(文学部門)を受賞。2007年『名もなき毒』で吉川英治文学賞を受賞した。他の作品に『ソロモンの偽証』『英雄の書』『悲嘆の門』『小暮写眞館』『荒神』『この世の春』などがある。

大極宮 (外部リンク)

宮部みゆき 作家生活30周年記念特設サイト

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