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白川静さんに学ぶ 漢字は楽しい

小山鉄郎/著 、白川静/監修

539円(税込)

発売日:2009/11/30

  • 文庫

詳しい人にこそ新しい発見があるはずです。ベストセラー、待望の文庫化!

私たち日本人の生活になくてはならない漢字。毎日使っていながら、どうしてその形・意味になったのかは、なかなか知られていません。複雑で難しそうに見える世界には、一体何が隠されているのでしょうか? この本は、漢字学の第一人者白川静さんの文字学体系を基に、古代文字やイラストを使い、成り立ちをわかりやすく紹介します。学校とは全く違う楽しい漢字の授業の始まりです。

目次
はじめに
【手】をめぐる漢字
【足】をめぐる漢字
【人】をめぐる漢字
【示】をめぐる漢字
【申】をめぐる漢字
【タイ】をめぐる漢字
【余】をめぐる漢字
【辛】をめぐる漢字
【文】をめぐる漢字
【目】をめぐる漢字
【臣】をめぐる漢字
【犬】をめぐる漢字
【矢】をめぐる漢字
【其】をめぐる漢字
【衣】をめぐる漢字
【羊】をめぐる漢字
【隹】をめぐる漢字
【虎】と【象】をめぐる漢字
【真】をめぐる漢字
【可】をめぐる漢字
【才】をめぐる漢字
あとがき
解説 俵万智

書誌情報

読み仮名 シラカワシズカサンニマナブカンジハタノシイ
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
頁数 192ページ
ISBN 978-4-10-129891-7
C-CODE 0122
整理番号 こ-47-1
ジャンル 言語学
定価 539円

書評

白川漢字学へのすぐれた案内

岸本葉子

 白川静さんは、ご存じのとおり漢字研究の第一人者。ライフワークというべき『字統』『字訓』『字通』の三部作を完成させた後も、一般市民のために漢字やそれを生んだ文化についての講話を続け、2006年、九十六歳で亡くなった。
『白川静さんに学ぶ 漢字は楽しい』は晩年の白川さんに教えを受けた小山鉄郎さんが、大人はもちろん「小中高校生たちにも十分理解できるように」易しく書いた。
 間口は広いが、奥も深い。白川漢字学の核心にふれ、古代中国の社会や世界観まで垣間見させる。加えて、権威を疑わないおそろしさ、それによって失うものまで、読者は考えることになる。
 著者によると、白川さんの最大の業績のひとつは、漢字に含まれる「口」の部分が神への祝詞を入れる箱であると指摘したこと。なるほど、それだと「口」を含むいろいろな漢字を体系的に説明できる。「告」は祝詞の箱を木の枝にかけ、神に訴え告げることを表している。「示」は神をまつる卓で、「祝」は卓に向かい祝詞の箱を、人が上にかかげているところ。
 そんなふうに芋づる式に、と言いたいくらい、漢字どうしがつながりを持って頭に入り、「ひとつひとつを別々に覚えてきた、あの苦労は何だったのか」と恨めしくなるほど。この自然な相互連関に比べたら、従来なされていた「告」は「牛が人に何かを訴えようとするとき、口をすり寄せてくる」なんて説明が、単なるこじつけに思えてしまう。
 なぜ白川さんは、指摘することができたのか。「はじめに」を読み返せば、うなずける。殷王朝の甲骨文字、周の時代にかけて青銅器に鋳込まれた文字を、白川さんは自分でたんねんに読んだから。漢字の始まりは、甲骨文字に遡るのだ。
 ではなぜ、白川さん以外の人は気づかなかったか。そのわけも著者は示している。後漢の人のまとめた『説文解字』が、長いこと漢字の聖典とされてきた。そして『説文解字』の作られたときはまだ、甲骨文や青銅器の文字は地中に埋もれたままだった。「告」は牛が口を寄せて云々も、『説文解字』にある説明だ。
 それにしたって甲骨文字の発掘が十九世紀末、それから一世紀以上、しかも漢字文化圏の人口はこれだけ多いのに、よくまあ放置されてきたものだと思うけれど、この侵すべからざる聖典に、白川さんは敢然と異を唱えた。「口」を含む漢字は数あれど「古代文字には、耳口の意味で構成されている文字は一つもないとのことです」という文をこの本の結びとしたところに、著者の批判と、白川さんの勇気への支持を感じる。日本でも『説文解字』をもとにした辞典が、今も作られているそうだ。旧字はまだ、漢字のもとの形を追えたが、戦後の漢字改訂で、正しい体系を知らずに作り変えられてしまい、新字では意味のとれないものが多いという。「誤りを正当として生きなければならぬという時代を、私は恥ずべきことだと思う」との白川さんの憤りを、具体的な例に即して、著者は伝える。
 こうした話は、実はかなり込み入っているし、どうかすると退屈でもある。にもかかわらず、わかりやすく楽しい本なのは、著者の小山さんの功績だ。考え抜かれた構成、切れのよい文章、的確な接続詞による方向指示で、迷いなく読み進められる。「あとがき」によれば、著者に漢字の話をする白川さんは、いつも好奇心でいっぱいで、著者もそれにひきこまれ、漢字が面白くなっていったとのこと。同じプロセスを、読者はこの本で追体験できる。
 白川さんの仕事は、山に喩えれば独立峰だ。先人が累々と積み重ねてきたところへ、だいじな石を一個載せた、のではない。まっさらな平地に、新しい体系を打ち立て、既存の山を越える高さに到達した。白川さんが漢字研究ですごいことを為し遂げた人だとは、私も聞いていた。が、どのようにすごいかは、この本ではじめて実感した。

(きしもと・ようこ エッセイスト)
波 2009年12月号より

著者プロフィール

小山鉄郎

コヤマ・テツロウ

1949(昭和24)年群馬県生れ。一橋大学卒。1973年共同通信社入社。川崎、横浜支局、社会部を経て、1984年から文化部で文芸欄、生活欄を担当。現在、同社編集委員兼論説委員。著書に『白川静さんに学ぶ 漢字は楽しい』『白川静さんと遊ぶ 漢字百熟語』『村上春樹を読みつくす』『文学者追跡』などがある。

白川静

シラカワ・シズカ

(1910-2006)福井県生れ。立命館大学卒。立命館大学教授を務めた。漢字研究の第一人者で文化勲章受章者。『字統』『字訓』『字通』の字書三部作で知られる。

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