ホーム > 書籍詳細:燃えよ剣〔上〕

燃えよ剣〔上〕

司馬遼太郎/著

935円(税込)

発売日:1972/05/30

書誌情報

読み仮名 モエヨケン1
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-115208-0
C-CODE 0193
整理番号 し-9-8
ジャンル 歴史・時代小説、文学賞受賞作家
定価 935円

男なら、時代の先頭に立て! 最強の人間集団を作った土方歳三の智謀。司馬文学の代表作。

幕末の動乱期を新選組副長として剣に生き剣に死んだ男、土方歳三の華麗なまでに頑な生涯を描く。武州石田村の百姓の子“バラガキのトシ”は、生来の喧嘩好きと組織作りの天性によって、浪人や百姓上りの寄せ集めにすぎなかった新選組を、当時最強の人間集団へと作りあげ、己れも思い及ばなかった波紋を日本の歴史に投じてゆく。「竜馬がゆく」と並び、“幕末もの”の頂点をなす長編。

  • 映画化
    燃えよ剣(2021年10月公開)
目次
女の夜市
六車斬り
七里研之助
わいわい天王
分倍河原
月と泥
江戸道場
桂小五郎
八王子討入り
スタスタ坊主
疫病神
浪士組
清河と芹沢
ついに誕生
四条大橋
高瀬川
祇園「山の尾」
士道
再会
二帖半敷町の辻
局中法度書
池田屋
断章・池田屋
京師の乱
長州軍乱入
伊東甲子太郎
甲子太郎、京へ
慶応元年正月
憎まれ歳三
四条橋の雲
堀川の雨
お雪
紅白
与兵衛の店

書評

永遠に眩しい原点

小松エメル

 小説を読むのがこんなに好きなら、書く方もできるかも……そうだ、作家になろう。大学は史学科に行って歴史を勉強して、いつか新選組小説を書くんだ。
 高校三年生の夏に決めた進路はほとんど思いつきだったが、若さゆえか、それができないとはちっとも思わなかった。実際、大学卒業後に作家デビューし、数年後には新選組小説を書いていた。『夢の燈影』、『総司の夢』、『歳三の剣』は本になり、他にも長編ひとつと、いくつかの短編をまとめたものがそれぞれ出版される予定だ。私の新選組への想いを知っている人たちは、「夢が叶ってよかったね」と言ってくれた。ありがとうと喜びつつも、私は内心首を傾げていた。
 夢が叶った――そう思えた瞬間は、はたしてあっただろうか?
 デビューが決まったときは嬉しかった。はじめて本が出たときは安堵したし、続刊が決まったときは、この物語の続きが書ける! と胸が躍った。売れ行きが芳しくなく、打ち切りになったときは落ち込みもしたが、もっと楽しんでもらえるものを書こうと前を向いた。書きたいものはたくさんある。デビューして十年以上経っても、作家としてはスタートラインに立ったばかりだ。だから私の夢は、きっとはるか遠くにあるのだろう。それが何であるのかもまだはっきりと見えてはいない。
 しかし、「新選組作家」としての夢を考えるのなら、答えは簡単だ。司馬遼太郎『燃えよ剣』――これこそが、新選組作家の夢である。
 以前書いた司馬遼太郎氏についてのエッセイには、「司馬遼太郎の存在感」というタイトルをつけた。今なら「『燃えよ剣』の呪い」にするだろう。彼の作品が想像以上に大きな存在だと気づいたのは、自身が新選組小説を発表したあとだった。読者の感想や賞の選評には、必ず『燃えよ剣』が登場した。
 この土方歳三は繊細すぎる、近藤勇はこんな知恵者じゃない、土方は思い悩んだりしない、私の知っている新選組と違う!――私の新選組小説は、『燃えよ剣』のイメージと全く合っていないらしい。人々の中では、新選組=『燃えよ剣』で、それは決してぶれることのない真実なのである。発表されてから数十年経っても、これほどまでに皆の心の中に生き続けているとは……これを呪いと言わずに何と言おうか。
 なるべく影響を受けぬように遠ざけていた『燃えよ剣』を最近読み返している。岡田准一氏主演の実写映画が公開される今年、初の漫画化も決定した。その脚本を、なんと私が担当することになったのだ。お話をいただいたときは、ドキドキとワクワクが止まらなかった。新選組ファン冥利に尽きるというものである。そして、これによって呪いから解き放たれるのではと淡い期待も抱いたが――そちらはまだ無理であるようだった。
 司馬さんの作品は、司馬さんのものだ。私が少し手を加えたからといって、私のものになるわけではない。だが、私の好きな新選組を、土方歳三を、原作に忠実にしつつも描くことはできる。もちろん、私が出せるのはアイディアだけで、実現してくれるのは作画担当の奏ヨシキさんだ。彼が魂を込めて描いてくれれば、素晴らしい『燃えよ剣』ができると確信している。なじみ深い部分を残しながら、新しい土方歳三が、新選組が見られるはずだ。
 今回の実写映画化と漫画化で、『燃えよ剣』の呪いはさらに強まるかもしれない。しかし、私の心は晴れやかだ。久方ぶりに読み返した『燃えよ剣』はどこまでも格好よく、土方歳三はやはりこうでなくっちゃと思ったからだろう。
 この眩しさを胸に刻みながら、私はこれからも違う道を行く。光があれば影もある。私は後者の道を進み、ときおり振り返っては光を見つめる。あまりの眩さに、自分を惨めに思うことがあるかもしれない。けれど、それが私の道なのだ。これから新選組を書こうという人には、どうかいろんな道を作って、それぞれの新選組を見せてほしい。そうすることでやっとこの呪いは解けるのだろうから。

(こまつ・えめる 作家)
波 2021年10月号より

歴史は人物を通して学ぶ

原田眞人

『燃えよ剣』は10代、『国盗り物語』は40代、『胡蝶の夢』は60代で出会った。読書回数で言えば、圧倒的に『燃えよ剣』が多い。10年に一度は読み返している。映画化を意識して読み始めたのは30代からだろうか。
『国盗り物語』は『関ケ原』映画化の時点で再度読み返し、若き日の斎藤道三こと松波庄九郎の槍戦法を映画に取り入れた。

司馬遼太郎『燃えよ剣〔上〕』

『胡蝶の夢』は『燃えよ剣』の映画化が決まって、幕末の資料収集の一環として読み、一橋慶喜の主治医となった松本良順の生き様に魅了された。近藤勇との出会い、土方歳三との交友は映画「燃えよ剣」で語りたかったが、長尺になってしまうため断念せざるを得なかった。健康促進のため新選組に豚を飼育させるくだりなど、リアルでキッチュ。
 いずれにせよ、私にとって司馬作品の太い幹/血脈は『燃えよ剣』であると断言できる。
 29歳で映画監督デビューした私は、ハリウッドでサイレント期から映画を撮り始めた巨匠ハワード・ホークスの影響を強く受けている。パームスプリングスの終の住処にお邪魔したこともある。ホークスはリレーションシップ・ドラマと総称されるプロとプロの絆を謳歌する映画作りの名人だった。その筆頭は「コンドル」(1939)や「赤い河」(1948)だ。
 1950年代半ば、彼はスランプに陥り3年間パリで過ごした。ハリウッドの狂騒から離れたかったのだろう。帰国後、60代になって初めて作った映画が「リオ・ブラボー」(1959)である。ジョン・ウェイン、ディーン・マーティン、リッキー・ネルソン、ウォルター・ブレナンが顔を揃えるこのウェスタンは世界的な大ヒット作となり、ホークスのスポーティな作家性は今も映画人のリスペクトを集めている。
『燃えよ剣』には武州多摩で育んだ勇、歳三、総司、源さんの魂の連帯がある。これが、私にとっては「リオ・ブラボー」の善玉カルテットそのものだった。ヒロインであるお雪さんは、趣味の絵画への取り組み方に攻めの要素を加えれば、ホークス好みのスパンキーなヒロインになるとも思った。ジーン・アーサー、ジョーン・ドルー、ローレン・バコール、アンジー・ディッキンソンの系列だ。

司馬遼太郎『国盗り物語』

 司馬作品の醍醐味&凄みは、資料を読み砕き、集めた点と点を繋ぎ合わせ、作家のイマジネーションを駆使して造形したふくよかな人物だ。彼らが動くと時代が見えて来る。お得意の「余談だが」は人物が動き出すまで始まらない。歴史学者や評論家は、土方の都合の悪い真実を描かないからと『燃えよ剣』を切り捨て、蔑むかのように「テーマ小説」のレッテルを貼ったりもする。土方が島原、祇園、上七軒の芸妓たちと情を重ねようが、卑劣な拷問に関わっていようが、それらを描かないからといって、『燃えよ剣』の土方が背負った「歴史が緊張して、緊張のあげくはじけそうになっている時期」に嘘はない。書く、あるいは創る立場からいえば、芸妓数人が土方に張り付いていたら、話が冗長になる。「卑劣な拷問」が元新選組隊士永倉新八が晩年語る逆さ吊りにした古高俊太郎の足の裏に五寸釘を打ち込んでローソクを立てた、という程度のものであれば、私は一笑に付す。なぜなら、晩年の永倉は取材記者と一緒になって、真実よりも読者の喜ぶ話題を優先していたから。これらを排除するのは創作する立場の知恵だ。「テーマにそぐわないから切り捨てる」のは評論家の仕事であって作家の姿勢ではない。『国盗り物語』は1963年から1966年の高度成長期にかけて連載されたからビジネス戦線の担い手に受けた、という過去の現象面だけを強調し、この小説が持つ普遍性、世代を超えて愛され続ける真実を言い当てていない評論も空疎だ。『国盗り物語』の最大の魅力は道三から信長への「時代の受け渡し」にある。
 歴史は人物を通して学ぶ。これが私の思想だから、司馬作品に惹かれる。司馬史観とは何よりも先ず「人類学講座」である。私はその講座を10代のころから受講し続けている生徒だ。

(はらだ・まさと 映画監督。司馬遼太郎原作の「関ケ原」「燃えよ剣」を監督。)
波 2020年6月号より

著者プロフィール

司馬遼太郎

シバ・リョウタロウ

(1923-1996)大阪市生れ。大阪外語学校蒙古語科卒。産経新聞文化部に勤めていた1960(昭和35)年、『梟の城』で直木賞受賞。以後、歴史小説を一新する話題作を続々と発表。1966年に『竜馬がゆく』『国盗り物語』で菊池寛賞を受賞したのを始め、数々の賞を受賞。1993(平成5)年には文化勲章を受章。“司馬史観”とよばれる自在で明晰な歴史の見方が絶大な信頼をあつめるなか、1971年開始の『街道をゆく』などの連載半ばにして急逝。享年72。『司馬遼太郎全集』(全68巻)がある。

関連書籍

この本へのご意見・ご感想をお待ちしております。

感想を送る

新刊お知らせメール

司馬遼太郎
登録
歴史・時代小説
登録
文学賞受賞作家
登録

書籍の分類