ホーム > 書籍詳細:美しい星

美しい星

三島由紀夫/著

737円(税込)

発売日:1967/11/01

  • 文庫

ひょっとすると君の御父上は宇宙人じゃないのかね。

大杉家には秘密ができた。一家全員、宇宙人だと自覚したのだ。父は原水爆を憂い米ソ首脳にメッセージを送り、金星人の同胞と称する男を訪ねた娘は処女懐胎して帰ってきた……。対立する宇宙人〈羽黒一派〉との人類救済の是非を巡る論争は『カラマーゾフの兄弟』「大審問官」の章とも比肩する。三島文学の主題がSFエンターテインメントと出会った異色作。

  • 映画化
    美しい星(2017年5月公開)

書誌情報

読み仮名 ウツクシイホシ
シリーズ名 新潮文庫
装幀 牧野伊三夫/カバー装画、新潮社装幀室/デザイン
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
頁数 384ページ
ISBN 978-4-10-105013-3
C-CODE 0193
整理番号 み-3-13
ジャンル 文芸作品
定価 737円

書評

世界の見え方が変容する体験

落合陽一

 美に対する執着のようなものを言葉を通じて体感できる歳になったのは二十代以後だったような気がする。三島文学に始めて触れたのは小学生だったか中学生だったかの学校の授業で、そのときは言葉によって世界の見え方が変容するような体験を知覚したことがなかった。その後、時は流れて大学の頃、学生の自由な時間で濫読を繰り返す中で再び三島に出会う。作家として創作したり、文脈を整理したり、自分なりに表現と向き合うようになって以後、三島の言葉は常に僕にインスピレーションを与えてきた。
 自分が三島の文章に評を書くなどと烏滸がましいが、段落を一つ抜き出しても三島と分かるような美しさがあること、そしてそこに美醜を合わせ呑むような憑りつかれたような解像度の高い筆致が常に含まれていることが自分の世界認識を常に改めさせるのだと思っている。多様な美の形に果敢に挑む姿が垣間見えるところに没入性があるのだろう。私の好きな著作を三つ挙げるとすれば、『金閣寺』『仮面の告白』『美しい星』あたりだろうか。『潮騒』も好きだが、今回はこの三つにしよう。

三島由紀夫『金閣寺』

『金閣寺』の、世界の認識を変えるほどの夢想と行為との関係性。夢想によって育まれたものが現実と交錯していく世界観に恋い焦がれながら読んだ。主人公の金閣寺に対する美的な倒錯がたまらない。社会的インパクトがあった事件がモチーフになっていると言われるものの、1987年生まれの自分にとっては『金閣寺』を読みながら得た体験が、僕の中では実際の事件と一体化しつつある。失われつつある幽玄の美、たくましさと艶かしさ、闇を地として聳え立ち輝く炎の交錯、高揚感の果てに生きるということを選んでいくということはどういう意味を持つのだろうか。ほの暗さの中で輝く柔らかな光に照らされた金糸や銀糸のような、舞と京刺繍のような美しさと人間の醜さを合わせて味わう瞬間が好きだ。じっとりとした夜に読み返すことが多い。

三島由紀夫『仮面の告白』

 三島が二十四歳で『仮面の告白』を書いたことに愕然とする。確かに表現とは自分を曝け出すことなのかもしれないが、内的な反芻の長時間の蓄積によって描かれる性的描写の端正さに惹かれる。フェティシズムの描画、葛藤、コンプレックス、真っ直ぐにはいかない美的なねじ曲がり方と、その周囲に存在するプラトニックな美や男性美へのストレートな倒錯の混在が味わい深さを生んでいると思う。直線的な感情と渦巻く感情の二つが入り混じって、表と裏を行き来し、反芻され、文体のあちらこちらに現れては消えていく。このねじれが至るところから感じ取れる。主人公が対象と向かい合う時に始まるループを客観的に眺めるたびに、自分の中でも語り出そうとする何かを発見することができる。自ら創作するときに、「言葉が出やすくなる小説」という観点では、十九歳ごろによく読んでいた。何かと向かい合って、それが自分の中で対話可能なループを作るまで集中する、そんなものの見方を教えてくれる気もする。

三島由紀夫『美しい星』

『美しい星』のSFかと思わせる荒唐無稽なストーリーから、人類を外側から眺めてみる壮大なテーマを感じとる。終末観と不安の中で描かれるテーマに関する議論の様子を追いかける感覚は他の三島作品とは異なっているが、後半の人間存在について外側から眺める議論が心地よい。自分は大学時代に『幼年期の終わり』(アーサー・C・クラーク)とか『夏への扉』(ロバート・A・ハインライン)みたいなSFと同時にこの作品を読んだ記憶があるが、1950年代から1960年代の時代性の中に確かにこのような作品を揺籃する空気が存在したのだということを感じさせてくれる。虚無と希望の中で振動する自分を発見し、黙想する対話相手なのかもしれない。人類にして人類を外側から眺めているような感覚は自分自身がコンピュータと向き合っているときの感覚に近い。人間性とは何か、メディア装置を用いた芸術とは何か、そういった気分を喚起してくれる。
 というわけで三冊ほど好きな三島作品について書かせていただいたが、駄文失礼。思えば何かを参照するわけでもなく、作品に想いを馳せるだけで、ついつい言葉が自然と湧き出てくる。偏屈で曲がりくねっていてそれでいて真っ直ぐな、年代物の癖の強いウイスキーのような、そういった特徴が三島作品にはあると思う。

(おちあい・よういち メディアアーティスト)
波 2020年9月号より

どういう本?

タイトロジー(タイトルを読む)

 ーー今こそ私は、あなた方に宣言しようと思う。
 救済が私の役目だから、何を言われようと、私は救済のために黙々と働くのだ。破滅が私の幻影のすべてだから、もう幻影だけで沢山なのだ。人類に説いてあらゆるか核実験をやめさせ、あらゆる核兵器を廃棄させ、空飛ぶ円盤が何のために地球を訪れたかを、呑み込ませてやらなくてはならぬ。あなた方と会ってよくわかったことだが、地球の今世紀の不吉な影は、あなた方の星の同志の活動に依るところが多いらしい。あなた方の星の影響が、地球が美しい星に生れ変るのを邪魔してきたことがよくわかった。(本書305〜306ページ)

著者プロフィール

三島由紀夫

ミシマ・ユキオ

(1925-1970)東京生れ。本名、平岡公威(きみたけ)。1947(昭和22)年東大法学部を卒業後、大蔵省に勤務するも9ヶ月で退職、執筆生活に入る。1949年、最初の書き下ろし長編『仮面の告白』を刊行、作家としての地位を確立。主な著書に、1954年『潮騒』(新潮社文学賞)、1956年『金閣寺』(読売文学賞)、1965年『サド侯爵夫人』(芸術祭賞)等。1970年11月25日、『豊饒の海』第四巻「天人五衰」の最終回原稿を書き上げた後、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決。ミシマ文学は諸外国語に翻訳され、全世界で愛読される。

初めて出会う 新・三島由紀夫

この本へのご意見・ご感想をお待ちしております。

感想を送る

新刊お知らせメール

三島由紀夫
登録
文芸作品
登録

書籍の分類