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和解

志賀直哉/著

506円(税込)

発売日:1949/12/07

書誌情報

読み仮名 ワカイ
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-103001-2
C-CODE 0193
整理番号 し-1-1
ジャンル 文芸作品
定価 506円

敵は父親だった。親子の免れがたい葛藤と許しの軌跡を描いた傑作。【読み継がれて80万部突破!】

主人公順吉は父の京都来遊に面会を拒絶し、長女の誕生とその死をめぐって父の処置を憎んだ。しかし、次女に祖母の名をかりて命名したころから、父への気持も少しずつほぐれ、祖母や義母の不断の好意も身にしみ、ついに父と快い和解をとげた……。肉親関係からくる免れがたい複雑な感情の葛藤に、人間性に徹する洞察力をもって対処し、簡勁端的な手法によって描写した傑作中編。

書評

大学生と読む三冊

石田千

 週にいちど、大学生と本を読む。
 神奈川にある東海大学の授業は、五年めになった。いつまでもへっぽこで、専任の先生がたのような講義はできないので、若いころに読んだ小説やエッセイを再読している。
 五十をすぎて読みかえしてみると、気づくことがたくさんある。すっとばして読んでいたころも、なつかしく思い出せる。だから、みなさんが五十になったとき、再読が楽しめるように、いま読んでおくといいよ。
 教室の若いひとたちは、春でも秋でも、わかったようなわからないような、ふーんという顔で読んでいる。勝ち気だったり、やんちゃだったり、留年したりしていても、みんな素直で、おもろい。思っているけど、声にならない。そういうことを、なんとか文章で伝えたい。
 おおきな大学なので、文系の学部だけでなく、建築やスポーツを専攻しているひとも来る。恋愛や、親子関係や進路、情報が増えて世のなかは便利になるいっぽうだけれど、悩みはむかしとあんまり変わらない。
 テキストは、かならず版を重ねている文庫本にする。本を手に持ち、ページをめくることじたい、忘れかけているひとも多い。出費をさせるけれど、図書館やスマホの閲覧ではなく、じぶんの本を持つようにいう。文庫本は、ジーンズとおなじだからという。
 はいて洗ってをくりかえすと、穴があいたり、色が落ちたり、じぶんだけの味のあるジーンズになる。それとおなじで、くり返し、めくって線をひいて折って読んでいけば、じぶんだけの一冊ができる。読み返せば、学生のころの心境も浮かぶ。
 昨年は、新潮文庫から三冊を読んだ。

志賀直哉『和解』  志賀直哉の『和解』は、高校いらいの再読だった。母校の裏手に、志賀直哉の親友の、武者小路実篤の邸宅があったこともあって、白樺派は国語の課題図書としていろいろ読んだ。
 高校のころは、主人公の順吉のまっすぐな気質とおこないに、振りまわされるように読んだ。いまは、意固地な息子に手をやく父上のほうに肩いれしたり、手賀沼時代の志賀と武者小路そのままのやさしい交流もいい。
 授業では、対立と和解をテーマにみじかい小説を書いてもらった。親子の和解を書いたひとも多く、大団円で全員が涙するという場面が多かったのは、あきらかにテキストの影響だった。わかったようなわからないような顔をしているけれど、みんな涙する熱を持っている。

アン・モロウ・リンドバー『海からの贈物』  エッセイは、アン・モロウ・リンドバーグの『海からの贈物』だった。
 原文の知性と、吉田健一の見事でそっけない訳に、教室にしぜんに、敬意をもち耳を傾ける深い呼吸が生まれた。
 平成の大学生のころには、よくわからなかった。勤めはじめて、恋愛や結婚に迷うと、通勤電車で読みかえしたのがこの本だった。令和の大学生も、恋愛中のひと、進路が決まったばかりの四年生が、行く末をみさだめるような目をして読んでいた。
 ひとりになる時間の大切さが一冊を通して書かれているので、スマホを手ばなし、ひろいキャンパスに散策に出て、エッセイを書くことにした。わずか一時間だけれど、スマホがなくてこわかった、不安だった。はんたいに、子どものころの自由な探検の時間を思い出したというひともいた。

夏目漱石『三四郎』  夏目漱石は、毎年一冊かならず読んでいて、昨年は『三四郎』だった。
 日本より頭の中のほうが広いでしょう。心に残る一文をたずねると、この広田先生のことばをあげるひとが多かった。いまもむかしも、若いひとは、目を合わせて話のできる大人をさがしている。
 西洋化のすすむ明治の東京のせわしないようすが描かれ、オリンピックが近づいて町のようすが変わるいまは、再読の好機だった。
 三四郎がインフルエンザにかかっていたのはすっかり忘れていた。このことばが明治のころからあったんだねえと、みんなでおどろいた。
 百年まえの大学生も、おんなじようなことを考えていたのがうれしかったという感想をきいて、安堵した。情報も乗りものもどんどんはやく、複雑になる。けれど、心臓の鼓動はいまもむかしも変われない。
 大学の時間は、多くの学生にとって、大勢で一冊を読むさいごの機会になる。
 読みこんでよれよれになった文庫本が、よい思い出になったらうれしい。

(いしだ・せん 作家、エッセイスト)
波 2020年3月号より

著者プロフィール

志賀直哉

シガ・ナオヤ

(1883-1971)宮城県石巻町生れ。学習院高等科を経て東京帝国大学文学部中退。在学中に武者小路実篤、里見弴、有島武郎、柳宗悦らと同人雑誌「白樺」を創刊。自我の絶対的な肯定を根本とする姿勢を貫き、父親との対立など実生活の問題を見据えた私小説や心境小説を多数発表。1949(昭和24)年、文化勲章受章。主な作品に『和解』『城の崎にて』『暗夜行路』など。

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