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新任巡査〔下〕

古野まほろ/著

781円(税込)

発売日:2019/02/28

  • 文庫
  • 電子書籍あり

元警察キャリアが描く警察組織の光と闇。巧緻な伏線が織り成す究極の警察ミステリー。

内田希(アキラ)、22歳、女警。飛び抜けて優秀な彼女には秘密がある――。少女連続行方不明事件の目撃情報と、警察署内の「開かずの間」の噂。わずかな手がかりから事件の真相に迫る二人の新任巡査の背後に襲いかかる凶刃、そして命の危機……。巧緻に張り巡らされた伏線の先に浮かび上がる驚愕の真犯人とは。警察組織の内情を知悉する元警察キャリアの著者にしか書き得ない究極の警察ミステリー。

目次
アキラの章
第1章 警ら・職務質問 I
第2章 警ら・職務質問 II
第3章 夜の警察署
第4章 夜明け前の交番
第5章 一〇当務目
第6章 非違事案
第7章 非番
第8章 最後の当務
第9章 受傷事故
第10章 卒業試験(一次)
第11章 卒業試験(二次)
第12章 卒業試験(最終)
第13章 開かずの間
第14章 同期
第15章 検挙
終章 警察学校
文庫版あとがき
解説 村上貴史

書誌情報

読み仮名 シンニンジュンサ2
シリーズ名 新潮文庫
装幀 広瀬達郎(新潮社写真部)/カバー写真、新潮社装幀室/デザイン
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
頁数 464ページ
ISBN 978-4-10-100472-3
C-CODE 0193
整理番号 ふ-52-52
ジャンル ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
定価 781円
電子書籍 価格 781円
電子書籍 配信開始日 2019/08/16

書評

警察小説の新たなる里程標

村上貴史

 とんでもないものを読んだ、という第一印象だ。
 どのくらいとんでもないかというと、『新任巡査』刊行前後で、警察小説のリアリティの基準が変わるといいたくなるほどなのだ。
 そんな小説の主人公となるのは愛予警察の二人の新人警察官である。上原頼音らいとという巡査がまず一人目。ときおりバカヤロウと怒鳴られつつも、ひたすら真面目に物事に取り組む青年だ。そしてもう一人の主人公は、内田あきらという女性巡査。美人だが、空気は一切読まない。自らをコンピュータになぞらえ、“実務上の機微は、まだ私にインストールされていない”と自己分析したりする。とにかく切れ者だ。
 本書はそんな二人が警察学校を出て地域の交番に配置され、そして新任巡査として様々な経験を積んでいく様を描いた長編小説なのだが、そのリアリティは生半可ではない。
 たとえば――本書では、警察学校での模様をまず第1章までで示した後に、新人として地域の交番に配属された頼音と希の様子が描かれる。その描写は、まず、頼音が独身寮で五時半に起床する場面から始まる。それが第3章の冒頭の八十五頁でのこと。その後、頼音は愛予警察署で希と一旦合流後、さらにそれぞれの職場となる交番に移動する。そして頼音が一日の勤務を終えたのは(本来は二十四時間の勤務なのだがあれこれあって翌日午後三時だった)、第15章の終わり、なんと四百五十頁だ。深夜には希中心の描写(12~13章)が挟まれていたりはするが、その間に頼音が何をしていたかといえば、新人として掃除をしたり、交番で先輩に挨拶をしたり、交番の前で立番をしたり、だ。あるいは係長とともに自転車で巡回連絡に出かけたり、床屋やコンビニで話を聞いたり、マンションを戸別訪問したりだ。もちろん警察官だから事件とは遭遇するが、いわゆる推理小説に登場するような大きな事件を手掛けていたわけではない。それなのに、三百八十頁あまりが費やされているのである。異形なのだ。
 量としては異形だが、内容はとことん堅実である。新人に対する先輩や上長からの教育が、現場での実際の出来事を教材として徹底的に克明に描かれており、その一つ一つ(例えば拾った五十円を届けに来た子供とのやりとり)に物語があり、学びがある。決まり事の背景を知る発見もある。それ故にまったく退屈とは無縁であり、むしろ他に類のない刺激に満ちているのだ。しかも密度もとことん濃い。頼音の学びは、いうなれば現場を体験しながら教科書を復習するようなものなのだが、それがこんなにも愉しい娯楽小説として完成しているなんて、もはや驚き以外の何物でもない。
 だが――さらなる驚きがその後に待ち受けている。それまでの章での会話や行動のなかに存在していたいくつもの伏線に導かれるようにして、後半で大きな事件が浮かび上がってくるのだ。頼音も希もそれに巻き込まれ、それぞれの役割を命懸けで果たすことになる。衝撃的な出来事と緻密な推理、あるいは“敵”の冷酷で巧緻な策略。そうしたものがスリリングに交錯しながら、物語はスピードを増して流れていくのである。いやはや、こんな展開のミステリに化けるとは予想だにしなかった。驚嘆したうえで大満足である。
 古野まほろといえば、2007年に『天帝のはしたなき果実』でメフィスト賞を受賞してデビューした作家であり、謎解きミステリの巨篇の書き手としてのイメージをお持ちの方もいらっしゃるかも知れないが、東大法学部を卒業後リヨン第三大学法学部の修士課程を修了し、そして警察庁Ⅰ種警察官(いわゆるキャリア組だ)となった人物でもある。交番勤務経験もあれば、本部や海外での経験もあり、さらには、警察大学校主任教授まで務めているのだ。そんな経歴の持ち主が、“この小説では、どうしても嘘を吐かなければならない箇所以外、徹底した、細かい、リアルな描写を重ねています”と述べて書き上げた警察小説なのだ。このジャンルの新たなる里程標となるのも必然といえよう。
 なお、青春小説としても魅力的だったりするから、まったくもって侮れない。

(むらかみ・たかし 書評家)
波 2016年3月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

古野まほろ

フルノ・マホロ

東京大学法学部卒業。リヨン第三大学法学部修士課程修了。学位授与機構より学士(文学)。警察庁I種警察官として警察署、警察本部、海外、警察庁等で勤務し、警察大学校主任教授にて退官。2007(平成19)年、『天帝のはしたなき果実』で第35回メフィスト賞を受賞し、デビュー。有栖川有栖・綾辻行人両氏に師事。他の著書に『新任巡査』『新任刑事』『新任警視』『オニキス 公爵令嬢刑事 西有栖宮綾子』『R.E.D. 警察庁特殊防犯対策官室』『警察手帳』『警察官白書』『職務質問』などがある。

関連書籍

判型違い(単行本)

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