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ありがとう!

グラフィックデザイナー 川谷康久

 島根の片隅で退屈な毎日を過ごしていた中高生時代。マイコン少年だった僕は、ロールプレイングゲーム『ザ・ブラックオニキス』との出会いをきっかけに中世や剣と魔法とファンタジーの世界に興味を持ち、やがてTRPGブームが到来したこともあり、国内外問わずファンタジー小説を夢中で読んでいました。しかし、高校卒業後に上京してシティライフを満喫するうちに僕の本棚からファンタジー小説の姿は消え、W村上先生の本がたくさん並ぶようになっていました。


 気がつけば夜のネオンが似合ういっぱしのおじさんになった僕を再びファンタジーの世界へと連れ戻してくれたのが「十二国記」です。デザイン事務所から独立したばかりの頃、仲良くしてもらっていた少女まんがの編集さんが“めちゃくちゃおもしろい本がある!”と大興奮で半ば強引に『月の影 影の海』を貸してくれたのがきっかけでした。正直、陽子の一挙手一投足に最初はとてもイライラして、それでもページをめくる手は止まらず、気付けば物語の世界に引き込まれていました。前情報ゼロでしたので、女子高生が異世界でモンスターどもを次々と打ち倒していくような展開を勝手に想像していたのですが……もう全然違いますよね……これまで自分が読んできた(ヒロイック)ファンタジー小説とはひと味もふた味も違うものでした……。

 そして物語が進むにつれ、体の奥底からふつふつと熱が湧き上がり、最後は圧倒的なカタルシスを感じ、涙が止まりませんでした。しかし「十二国記」のすごさはある意味ここから! と僕は思います。これ以上ないんじゃないかという感動を与えてくれた第一作だけでなく、二作、三作……とシリーズが進むにつれ感動が更新されていくではありませんか……。軽々しく「人生半分損してる」って言葉は使いたくありませんが、「十二国記」を読んでない方に僕は「人生全部損してるぜ!」と断言いたします。


 最初は陽子にイライラしたと書きましたが、独立してフリーのデザイナーになったばかりで先行き不安だらけだった僕は、未知の世界でもがく彼女の姿に自分を重ねていたのだと思います。人はとても弱い。でも、誰にでもきっと機会はあって人は変わることができる。こんな自分でも変わろうと思っていいんだな……そう気付かせてくれたのは陽子だけでなく、楽俊の存在がとても大きいです。物事をありのままに受け止め、強さと優しさ、なによりも自分自身に責任をもっている彼の言葉のひとつひとつに、陽子を通じて僕にも“大丈夫だよ”と言ってくれているような気がして、ちっちゃいけど一国一城、零細企業の王として頑張っていこうと勇気をもらいました。ありがとう!


 長々とすみません、いちばん言いたいことを最後に……。

 やっと続きが読めるぞーーーーーーーー!! 涙

yom yom vol.58 2019年10月号より)