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「⼗⼆国記」の歩き⽅

小野不由美「十二国記」シリーズには、様々な国と人物が登場する。
時間と空間が絡み合い、深遠で壮大な人間ドラマが展開される物語は、新潮文庫版で全10点15冊に及ぶ。
どこから読み始めるのが良いの?と迷う人も多いはず。そんなアナタのために、
《完全版》「十二国記」の世界を楽しむコツを、書評家・朝宮運河さんに教えていただきました。

朝宮運河(あさみや・うんが)

書評家。1977年北海道生まれ。ホラーや怪談、幻想文学を中心に、雑誌記事や書評、文庫解説を多数執筆。『家が呼ぶ 物件ホラー傑作選』などホラーアンソロジーの編纂も手がける。本の情報誌「ダ・ヴィンチ」での小野不由美特集や「十二国記」関連企画にもたびたび関わっている。

 今年シリーズ開始30周年を迎える小野不由美の異世界ファンタジー「十二国記」。シリーズ累計発行部数は1280万部を超え(2021年9月現在)、2019年に刊行された18年ぶりの新作長編『白銀のおか くろの月』が社会現象ともいえる反響を呼ぶなど、その人気は留まるところを知らない。

 シリーズの誕生は1991年9月、物語全体のプロローグにあたる『魔性の子』の刊行までさかのぼる。
『魔性の子』は孤独な高校生・高里の周囲で巻き起こる事件を描いた哀切な青春ホラーで、デビュー間もない小野不由美の才気が遺憾なく発揮された長編だった。当時は独立した作品として発表された『魔性の子』だが、実は作中では詳しく描かれることのない裏のストーリーが存在した。それこそが長年にわたって私たちを魅了する「十二国記」の物語であり、『魔性の子』は壮大な異世界ファンタジーを、現実側から描いたものだったのだ。
 1992年にはシリーズ本編の第1弾『月の影 影の海』が登場。日本から突如、地図にない異界に連れ去られた高校生・陽子の苦難に満ちた冒険を描いた本作によって、「十二国記」は本格的に開幕する。この作品の後、さらに6作の長編と2冊の短編集が発表され、シリーズはいまなお継続中だ。

「十二国記」の舞台になっているのは、慶・奏・範・柳・雁・恭・才・巧・戴・舜・芳・漣という12の国が、幾何学模様のように配置された異世界である。それぞれの国を治めているのは、麒麟と呼ばれる霊獣に選ばれた王。王は天啓のあるかぎり永遠の命をもち、麒麟は宰輔として王に仕えている。
 このような独特の世界観をもつ「十二国記」は、数奇な運命に翻弄される者の姿を、政治や力、責任や信頼などのテーマを絡めながら力強く描いていく。
 特に印象的なのが、諸国の王たちを主人公にした作品群だ。たとえば『風の万里 黎明の空』は、長い旅の果てに慶の王座に就いた陽子の孤独と葛藤を描いた作品。国を預かることの責任が、異邦人である陽子の肩に重くのしかかる。『なんの翼』は、王の不在によって乱れた恭を救うため、12歳の少女珠晶が麒麟のいる山を目指すという物語だ。これから「十二国記」を読まれる方は、陽子をはじめとする王たちと、それを補佐する麒麟たちにぜひ注目してみてほしい。


 様々な国や時代が扱われる「十二国記」だが、主な舞台のひとつが戴国である。10年ほど蓬萊(日本)に流されていた麒麟・泰麒が戻り、新たな王・驍宗が選ばれたばかりの戴。しかし謀反により、国土は衰退の一途を辿っている。
風の海 迷宮の岸』が描くのは、王を選ぶことを求められた泰麒の戸惑い。『黄昏の岸 暁のそら』では再び行方不明になった泰麒を探すため、諸国の王が力を合わせる模様が描かれている。
 そして最新作『白銀の墟 玄の月』では、『魔性の子』以来書き継がれてきた戴国の物語についにひとつのピリオドが打たれることになった。戴は「十二国記」という壮麗な織物の、いわば中心的図柄である。戴で何が起こっているか、という軸を意識しておけば、シリーズの全貌がより掴みやすくなるだろう。

 それにしても「十二国記」とは不思議な作品だ。架空の世界を扱っているにもかかわらず、一度読み始めると、陽子や泰麒がこの世に存在しないことが信じられなくなる。それほどこのシリーズは読者の心を深く、強く揺り動かすのだ。時代が変わっても、決して色褪せることのない物語。
 さあページを開いて、もうひとつの世界へ旅立とう。