舞城王太郎「秘密は花になる。」(110枚)
高井有一「帰還」(遺稿 未完)
山城むつみ「ベンヤミン再読――運命的暴力と脱措定」(大型批評)
新潮 2017年2月号
(毎月7日発行)
発売日 | 2017/01/07 |
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JANコード | 4910049010273 |
定価 | 特別定価998円(税込) |
◆秘密は花になる。[一一〇枚]/舞城王太郎
お母さん、モンスターみたい――。なぜ娘は私から逃げたのか。家族劇は「愛情」の根源へ!
◆帰還[遺稿(未完)]/高井有一
戦場の地獄から生還した男の戦後とは、昭和とは――。代表作『時の潮』に連なる未完遺作。
◆辺野古遠望/大城立裕
我が生あるうちに沖縄の問題は片付くのか?
◆背中の月/岸 政彦
喪失の傷からしたたる、痛切な人と街の物語。
■■ 連載小説 ■■
■野の春(五)/宮本 輝
■エリザベスの友達(六)/村田喜代子
■ミライミライ(九)/古川日出男
■TIMELESS(十)/朝吹真理子
■光の犬(十八)/松家仁之
■ペインレス(二十)/天童荒太
□□ 大型批評 □□
◆ベンヤミン再読――運命的暴力と脱措定/山城むつみ
[I]ベンヤミンの転回
[II]運命的暴力
[III]アガンベンと脱措定
[IV]デリダと脱措定
法と正義を巡るテクストを、戦争と運命の考察から読み抜く。進行形の「暴力批判論」論。
◆第49回《新潮新人賞》応募規定
◆数学する言葉[新連載]/森田真生
身体から切断された数学の言葉はいかに飛躍したか? その代償は? 新たな思考の始まり。
□□ 対談 □□
◆漱石と能楽~謡えばわかる!/安田 登 いとうせいこう
『草枕』『夢十夜』は能楽との出会いから生まれた。能楽師と弟子が読み解く敗者の近代史。
◆絵画と言葉/福田和也
だから、私は書く。他者の命を貫く批評の力。
◆あてどなき熱移動
――中上健次が誘うトラフィックとトランスファー/やなぎみわ
美術家が成し遂げた、中上作品舞台化の夢。
◆舞台は全世界
―― 渡邊守章演出『繻子の靴』をめぐって/四方田犬彦
9時間半に及ぶ本邦初上演大作、その達成。
◆再合理化される現代世界
――『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』論/池田純一
AIが遍在する未来の陰画としての魔法物語。
◆語り得ること/得ないことへの疑義
――高村薫『土の記』論/江南亜美子
■批評の魂[第十三回]/前田英樹
■小林秀雄[第四十回]/大澤信亮
■地上に星座をつくる/石川直樹
第四十八回・詩人と写真
■見えない音、聴こえない絵/大竹伸朗
第一四八回・プリンテッド・フューチャー
■新潮
・茗荷谷の安部公房/安部ねり
・「蟻の街のサザエさん」―― さすらい姉妹の寄せ場路上演劇/毛利嘉孝
・トランプとレナ・ダナム/山崎まどか
・ロマン、いらん―― 人工知能について/大澤 聡
・ブエノスアイレスで日本語を殺す/神里雄大
・住む場所/鳥 居
■本
・津村記久子『浮遊霊ブラジル』/戌井昭人
・高樹のぶ子『オライオン飛行』/佐久間文子
・山下澄人『しんせかい』/古谷利裕
・四方田犬彦『署名はカリガリ――大正時代の映画と前衛主義』/三輪健太朗
この号の誌面
立ち読み
編集長から
小説は終わらない
◎二〇一六年十月に八十四歳で亡くなられた高井有一氏の未完の遺作(「帰還」)を掲載する。氏は二〇〇二年頃から創作準備を始め、中国山西省まで取材に赴きながら、体調を崩された◎「帰還」の主人公は中国八路軍との戦闘で銃創を負いながら辛うじて生還する。だが帰国後の彼は、戦時の日常が平時の狂気であることに耐えられず、「気違ひ沙汰」を起してしまうのだ。彼はもはや〈戦中〉にいないが、まだ〈戦後〉に辿り着いていない。高井氏は、その引き裂かれた時を直視するように、また自作の未完を噛みしめるように、手書きの原稿に「途中まで」と記した……◎本号掲載の舞城王太郎「秘密は花になる。」(一一〇枚)で、主人公の主婦は家庭崩壊の危機に直面し、「愛情というものが、怪物なのだ」という認識に達する。だが、読了後の余韻が複雑であればあるほど、私たちは物語の終わりから始まる主人公の生を想像してやまない。そう、すべての小説は終わらない。「途中まで」なのだ。
新潮編集長 矢野 優
バックナンバー
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雑誌から生まれた本
新潮とは?
文学の最前線はここにある!
人間の想像力を革新し続ける月刊誌。
■「新潮」とはどのような雑誌?
「新潮」は日露戦争の年(1904年)に創刊された、百歳を超える文芸誌です。現役の商業文芸誌としては世界一古いという説があります(ただし第二次大戦中は紙不足のため数号、関東大震災のときは1号だけ休刊)。その歴史の一端は小誌サイト内にある〈表紙と目次で見る「新潮」110年〉でご覧ください。
■革新し続ける文学の遺伝子
もちろん古いことと古臭いことはまったく別です。百余年にわたり、たえず革新を続けてきたことこそが「新潮」の伝統であり、その遺伝子は現編集部にも確実に引き継がれています。ケータイ小説やブログ、あるいは電子配信、電子読書端末まで、いまだかつてない〈環境変動〉がわたしたちの生に及びつつある今、時代精神を繊細に敏感に感じ取った小説家、批評家たちが毎月、原稿用紙にして計1000枚以上(単行本にして数冊分)の最新作を「新潮」を舞台に発信し続けています。
■日本語で表現されたあらゆる言葉=思考のために
デビュー間もない20代の新人からノーベル賞受賞作家までの最新作がひとつの誌面にひしめきあうのが「新潮」の誌面です。また、文芸の同時代の友人である音楽、映画、ダンス、建築、写真、絵画などの領域からも、トップクラスの書き手、アーティストが刺激的な原稿を毎号寄せています。文芸を中心にしっかりと据えながら、日本語で表現されたあらゆる言葉=思考の力を誌面に結集させたい――それが「新潮」という雑誌の願いです。