女による女のためのR-18文学賞

新潮社

第14回 受賞作品

王冠ロゴ 大賞・友近賞

秋吉敦貴

「明け方の家」

秋吉敦貴

――このたびは大賞と友近賞のW受賞、おめでとうございます。「受賞の言葉」に、「暗く長い話を延々パソコンに打ち込んで」とありましたが、これまでは長編小説をお書きになっていたのでしょうか。

 そうです、短編はあまり書いたことがなくて。小説を投稿すること自体、今回が2回目です。最初は去年(2014年)の3月に、350枚くらいの小説を長編の新人賞に応募しました。箸にも棒にもかからないと思っていて、どこの賞に出したのかすら忘れていたくらい。秋に、大好きな古川日出男さんの作品が載っているからと手にとった文芸誌が、その賞を主催している雑誌で、選考経過が載っていました。二次選考まで残っていたので、まったくダメというほどでもないんだな、じゃあ次もどこかの賞に出してみようか、と。
 R-18は2ヶ月後が〆切で、選考委員の先生方のファンだったこともあり、応募しました。
 友近さんの選評も、とても嬉しかったです。ありがたいことを言ってくださっていて。

――小説を書き始めたのはいつ頃からですか?

 小学生くらいから、細々と書いていたのですが、そのころは自分の思いを書くという感じでした。心に溜まった憤りを吐き出すような……。物語を書き始めたのは、中学生くらいからですね。
 小説を書いていることは、親友ふたりと家族くらいにしか話していなかったのですが、あるときその親友のひとりから「いいかげん、どこかに出しなさいよ」って言われたんです。彼女はずっと小説家になりたいと思っていたらしいのですが、高校生のときに私が何かで書いた文章を読んで、その夢を諦めたというんです。びっくりしました。
 そんなことがあって、去年のお正月に、ちゃんと小説を書いて、どこかに応募してみようかな、と思ったんです。自分に文才があるなんてまったく思えなかったのですが、友達だけがそう信じてくれていた。

――長いあいだ、誰にも読ませることなく書き続けていたんですね。

 書いているなんて人に言うのは恥ずかしくて。好きな小説や、いま読んでいる本のことを誰かと話すのも、気が進まないくらいでした。なんていうか……大事すぎて。

――「書く」とは、秋吉さんにとってどういうことなのでしょうか。

 書いていないと、体調が悪くなってしまうんです。何回か、もう小説を書くのはよそう、もっと身になることをしなきゃ、と思って、書くのをやめたことがありました。そうすると、機嫌が悪くなってすごいキレ方をしてしまったり、情緒不安定になる。なんでこんなふうになってしまったんだろう、と考えると、「あ、小説を書いていないからだ」と思い当たるんです。楽しむために必要なことというのではなく、生きるため、いえ、死なないために必要、ですね。大げさかもしれませんが、そういう感じがします。

――「明け方の家」は、主人公が瀕死の猫を助けるところから始まります。秋吉さんも猫を飼っていらっしゃるとか。

 私も、怪我した猫を拾ったことがあるんです。家には病気の猫がいるので飼えなくて、動物愛護団体のシェルターに預けました。団体にボランティアに行ったり、お金もたくさん払って、けっこう大変でした。作中では主人公が猫の手術代に15万円払っていますが、私の場合はその何倍もかかりました(笑)。でも結局、半年後に病気で死んでしまって。
 飼ってあげたかったなあという思いがずっとありました。物語には、こうなってたらいいなという別の世界を描くこともできる。せめて作品のなかで、元気で生きていてほしいなと思って書きました。

――血縁の関係がない女性3人の暮らしは、どのように発想されたんでしょう。

 うーん、どうやって思いついたんだったか……。血の繋がりがないほうがいいときもありますよね。一緒に暮らしていても、距離感が近すぎなくて。
 実は「明け方の家」は、〆切の3日前くらいから書き始めたんです。その前にすでに1作応募していて、それだけでいいと思っていたんですが、R-18は1人3作まで応募できるので、1作じゃ悪いかなあ、みなさん3作応募されるのかなあとふと思って、考え始めたものでした。
 自分では長編のために用意していた話で、それを強引に短編に調整したようなところがあります。ラストに至る流れもだいぶ端折ってしまったので、選評でラストについてのご指摘に「そうだよなあ」と自分でも思いました(笑)。

――1作目としてご応募いただいたのはどういう話だったんですか。

 中学生くらいの女の子の一人称で、その子の叔父と従姉、つまりその2人も叔父と姪の関係なのですが、彼らがどうも恋愛関係っぽいと感じながら見ているような話でした。こちらが本命の応募作だったのですが、一次も通りませんでした。あとから読み直したら、それも納得の出来だったのですが。

――これからどんな作品を書いていきたいですか?

 自覚はないのですが、どうも書くものが暗くなっちゃうんです。「明け方の家」はけっこう明るく書いたつもりですが、これも暗いですよね?(笑)あまり暗い話になりすぎないように、最終的には人がちょっと立ち上がれるような、いい方向に行けるようなものを書きたいです。