波 2017年4月号

神楽坂ブック倶楽部発足! イベント詳報

筒井康隆原作映画祭!/ ライムスター宇多丸

(ラッパー/ラジオパーソナリティ)

「時をかける少女」だけじゃない!
ヒップホップ界を代表するツツイストがあの巨匠の原作映画の面白さに切り込みます。

  今回、「オールナイト番組の企画と上映作品セレクト」というお話を頂きまして、飯田橋ギンレイホールさんには学生時代からたいへんお世話になってきましたから、喜んで受けさせてもらったわけですけども、今夜の「筒井康隆ナイト」以外にも実はいくつか案を出したんです。
 女性アイドルの映画はたくさんあるし、上映の機会もあるので、「80年代男性アイドル映画ナイト」はどうか、とかね。大森一樹監督の「すかんぴんウォーク」(84年)に始まる吉川晃司三部作、「すかんぴんウォーク」が代表作っぽく評価されていますが、「ユー★ガッタ★チャンス」(85年)、「テイク・イット・イージー」(86年)とアクション映画化していく二作目、三作目を改めて観たいなと。
 さらに「CHECKERS in TAN TAN たぬき」(川島透監督 85年)とか、森田芳光監督作品で唯一ソフト化されていない「シブがき隊 ボーイズ&ガールズ」(82年)とか。これ、たった七十八分の映画なんですよ。なのでもう一本入れるなら、「ハイティーン・ブギ」(近藤真彦主演 舛田利雄監督 82年)あたり。
 もう一案はただの女性アイドル映画じゃなくて、「80年代オルタナ女性アイドル映画ナイト」。今夜やる「ウィークエンド・シャッフル」(82年)の中村幻児監督の「V.マドンナ大戦争」(宇沙美ゆかり主演 85年)、それに「ザ・オーディション」(セイントフォー主演 新城卓監督 84年)が並べばもう満足だろ、というね。あと一、二本選べば、「おニャン子・ザ・ムービー 危機イッパツ!」(おニャン子クラブ主演 原田眞人監督 86年)とか「クララ白書 少女隊PHOON」(少女隊主演 河崎義祐監督 85年)。作品としては微妙なのもあるけど(笑)、そういうオールナイトもいいかなあと。
 あとは「タモさん映画ナイト」も考えました。「キッドナップ・ブルース」(82年)って知ってます? 浅井慎平初監督作品。蓮實重彦がその年のワーストに挙げていましたけど(笑)。あとタモさんが出ていると言えば「下落合焼とりムービー」(所ジョージ主演 山本晋也監督 79年)もありますね。
 で、「神楽坂ブック倶楽部」のイベントということもあって、ギンレイホールさんに選ばれたのは「筒井康隆ナイト」でした。実は、佐賀のシアターシエマという映画館で、「ウィークエンド・シャッフル」、「俗物図鑑」(内藤誠監督 82年)、「ジャズ大名」(岡本喜八監督 86年)が交互にかかるプログラムをやって、僕はトークショーみたいな感じで呼ばれたことがあるんです。それのパクリ企画ですね(笑)。無論、シエマさんにはお断りしてご許可頂きました。「ジャズ大名」は激しいジャム・セッションがあって、朝になってみると新しい時代が来ていたというラストですから、これで終わるのもいいかなと思いましたが、さらにもう一本「パプリカ」(今敏監督 06年)もやって、夢の中に入ってもらおうと(笑)。
 この中では「俗物図鑑」が珍しいというか、ソフトもないし、どうすれば上映できるのかなと思っていたんですが、意外や意外というか、そりゃそうかというか、内藤監督がフィルムと権利を持っておられて、お借りすることができました。

中学時代から大のツツイスト

 みなさんご存じの方はご存じで、ご存じない方はまるでご存じでないでしょうが、わたくしはTBSラジオにて現在、土曜夜十時から「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」という番組をやっております。そもそもそれより以前、ライムスターというラップグループの二〇〇六年発表のアルバム「HEAT ISLAND」の中に「ウィークエンド・シャッフル」という曲が入っていて、いずれも言わずもがな筒井康隆先生の短篇小説、かつまたそれを映画化した中村幻児監督の作品からインスパイアされた、というかパクリです。まあ、ヒップホップはパクリの文化なんでね。
「ウィークエンド・シャッフル」だけでなく、ラッパーとしての私に興味のない方には知った事かという話だと思いますが、ある時期の僕の作品にはどこかしら〈筒井康隆オマージュ〉が入っていたくらい、筒井康隆作品からの引用は多いんですよ。中学生の頃からの大ファンでした。ここはまさに新潮社のお膝元ですが、新潮社さんから「筒井康隆全集」全二十四巻(83~85年)というのが八〇年代に出ておりまして、たしか一冊一五〇〇円くらいはしたと思うんですが、中学生には高かったのに何とか毎月買い揃えたりもしました。
 当時は何度目かの筒井康隆ブームでして、映画化も多かったんです。今夜観て頂く「ウィークエンド・シャッフル」も「俗物図鑑」も「ジャズ大名」もほぼその頃の作品です。その全集を十巻まで買うと、筒井先生の「最悪の接触」という短篇小説の直筆原稿のコピーが貰えた。二十四巻まで買うと、非売品のLPレコードが貰えたんです。そのレコードには、筒井先生はもちろんジャズがお好きで、ご自分でクラリネットも吹く方なので、山下洋輔さんなどとの演奏が入っていて、もう片面には自作の短篇小説「昔はよかったなあ」の朗読が入っていたんです。この、それなりにツツイストでないと手に入らないレコードをスクラッチして「グッド・オールド・デイズ」という曲を作りもしました。先生の朗読を使うのだから、この時はさすがに先生からちゃんと許可を頂きました。

映像化しやすくないからこそ

 さっきもチラッと言いましたが、筒井康隆さんの小説って、映像化作品が非常に多いんです。一九七四年の「俺の血は他人の血」(舛田利雄監督)以降、あまり途切れずに映画化されてきました。テレビドラマ化も多くて、僕は子どもの頃、多岐川裕美主演のNHK少年ドラマシリーズで「七瀬ふたたび」(79年)を熱心に観ていたのを覚えています。
 でも、今日は愛読者も多いでしょうが、筒井康隆先生の小説は映像化しやすいわけではないと思うんですよね。だけど、決して映像化しやすい原作でないからこそ、どの映画も意欲的というか、作り手の戦略や情熱が見え隠れして、出来不出来を超えて、どれも面白いんです。「この映画は価値あるものだ」と思わせるところが必ずあるんですよ。
 で、今夜上映する作品について簡単に触れていきますと、まず「ウィークエンド・シャッフル」。自分の番組名にするくらい好きな作品ですけど、筒井先生の作品の中ではものすごく有名な作品というわけではないんですよね。なのに、このタイトルを自分の曲などにつける人が多いのは、中村幻児監督版が果たした役割が大きいんじゃないか、という気もします。映画の公開当時、僕は中学一年生で、まさに筒井康隆に目覚めた時期で、この映画を有楽シネマに観に行ったらハマってしまって、何度も観ることになりました。僕の印象を言えば、よく言えばロバート・アルトマンふう、あるいはポール・ハギスの「クラッシュ」(04年)ふうの群像劇で、いろんな場所でいろんな人が自分勝手に行動しているのが、やがていろんな具合にクロスしていくんですね。もちろんアルトマンなどと較べると、群像劇として粗っぽいところはあるんですが、それも味になっています。
 また、後半になるにつれて、リアリティの次元がちょっとズレていくんです。例えば「時をかける少女」や「七瀬ふたたび」あたりは、物語内のリアリティ・ラインが一定ですよね。だからこそ、比較的映画にしやすいと思うんだけど、「ウィークエンド・シャッフル」の場合は、リアリティの次元がクライマックスで〈より虚構〉の方へひとつズレる。これが実に筒井康隆原作の映像化作品らしいなあと思わせるんですよ。
 ヒロイン役は秋吉久美子ですが、この頃、森田芳光監督の「の・ようなもの」のトルコ嬢・エリザベスとか、よく濡れ場的なシーンを演じてましたね。この映画でも脱いでいます。男の俳優だと、何といっても泉谷しげるが素晴らしい。
 次は「俗物図鑑」。内藤誠監督作品ですが、この映画の翌年、大林監督版「時をかける少女」で、原田知世のお父さん役をやっているのが内藤監督です。ついでに言うと、教室で、原田知世の前の席ではしゃいで悪目立ちしている(笑)生徒役が、内藤監督の息子さんの内藤研。本当に役に立たない知識ですね。さらに言っておきますと、先日別の場所で本作の解説をたっぷりしまして、いよいよ「深町一夫(未来人と称している生徒)昏睡レイプ犯」説が強固なものになったんですけど、まあ今日はそこはいいです(笑)。
「俗物図鑑」は、原作は梁山泊みたいに立てこもった主人公たちがヘリコプターから攻撃されたり応戦したり、大アクションシーンがあって、とてもまともには映画にできないスケールなんですよ。そのへん巧く処理していて、アイデア賞ものの映画です。
「ジャズ大名」は岡本喜八監督らしいというか、いかにも筒井作品らしいというか、現実と虚構が入り乱れる按配がいいんです。幕末、黒人奴隷がアメリカの船から逃げて来て、鎖国中だから牢屋に入れられるんだけど、殿様以下侍たちにジャズを教えて大騒ぎ、気がついたら明治維新になっていた、という話なんですが、例えば字幕や吹き替えでの遊び方とか、さすが岡本喜八といったところです。
「パプリカ」は夢の中の描き方がシュールで、アニメならでは、です。今監督が亡くなるちょっと前にブログで、名前は出してないけど「インセプション」(クリストファー・ノーラン監督 10年)だとわかる形で「パクリカ」だと書いていました。確かに二つを見較べると、ノーランもちょっと言い訳できないんじゃないか、という場面はありますね。
 あんまり喋ると、オールナイトが終わる時間がどんどん延びちゃいますからもうやめますが、映画化されてない面白い筒井作品って、まだまだたくさんあります。暴挙中の暴挙ですけど、ついに『虚航船団』(さまざまな文房具が乗った宇宙戦艦がイタチの住む惑星を攻撃し全滅する長篇)を映像化するとかね(笑)。3DCGなら「ソーセージ・パーティー」みたいなことができるんだから、ナシじゃないんじゃないかと思うんだけど……。すみませんね、独り言が多くって。じゃ、僕もみなさんと一緒に筒井康隆原作映画を朝まで四本観ますので、デスマッチふうに楽しんでいって下さい!(会場拍手)

於・飯田橋ギンレイホール 三月十日深夜
波 2017年4月号より