ホーム > 新潮文庫 > 新潮文庫メール アーカイブス > 担当編集者が語る「十二国記」の魅力
新潮文庫メールマガジン アーカイブス
担当編集者が語る「十二国記」の魅力



深遠なる物語「十二国記」シリーズが、満を持して始動!
屍鬼』や『東亰異聞』そして『残穢』でも知られる小野不由美さんの代表作であり、シリーズ累計750万部突破の壮大な物語「十二国記」。新潮社より〈完全版〉として刊行が始まり、第1弾の3冊はすでに各10万部を超えました。刊行を記念して、「十二国記」と共に歩んできた担当編集者Sさんにロングインタビューを試みました。

20余年にわたり、多くの読者から熱く支持される理由は?奥深い作風の基となっているものは?など、世代を超えて読み継がれる作品の秘密が垣間見えます。
「十二国記」はまだ手にしたことがない方にも、長年のファンの方にも必見の内容です。

「十二国記」とは、どんな物語ですか?


 私たちが住む世界と、地図上には存在しない異界「十二国」とを舞台にした物語です。虚海という広大な海に隔てられた二つの世界は、「蝕」と呼ばれる現象によって繋がっています。「十二国」では霊獣である麒麟が王を見出し玉座に据える。そして、麒麟と誓約を交わした王が国を治め、麒麟はそれを補佐します。
このように独特な設定によるファンタジー小説ですが、国政に心くだく王、理想に燃える官吏、市井の民といった様々な立場の人々が、運命に翻弄されながらも懸命に生きる姿を描いた骨太の人間ドラマです。


シリーズ最終刊行より約11年の時を経て、「十二国記」が新潮文庫から〈完全版〉を刊行することになった経緯は?

 1991年に『魔性の子』が新潮文庫から刊行されましたが、当時は連作の予定はなく、この1作のみでした。その後、続く作品が講談社X文庫と講談社文庫からシリーズとなり7作が発表されています。新作のお願いを進めるにあたり、これまで二社から刊行されていた全作品が新潮文庫で揃えられるようにと考え企画しました。
これを機に、1作だけが独立した「外伝」的な位置づけだった『魔性の子』を〈エピソード0〉として物語全体のプロローグに。本編となる『月の影 影の海』は〈エピソード1〉としました。


以前、「yom yom」に収録された短編「丕緒の鳥」「落照の獄」も、本になりますか?

 〈完全版〉では、「yom yom」に収めた2作に書き下ろしを加えた「短編集」、そして「書き下ろし長編新作」まで、シリーズ全体が一つの物語として繋がります。


世界設定は、作品が増えるごとに創られているのですか?

 『魔性の子』を書かれた時に、この1作を書かれるために全体の仕組みや設定は創られていたそうです。細かなところは、物語が進むごとに作り込まれています。


「十二国記」では、麒麟が王様を選ぶなど、独特の世界観がありますが、基になっているものはありますか?

 古代中国の讖緯(しんい)思想をベースにされているそうです。予言によって政治社会などを予測したものですが、その他いろいろなものが加えられていったそうです。


麒麟の他にも、とても珍しい妖獣や生き物が登場しますが、参考になっているものはありますか?

 『山海経(せんがいきょう)』を資料にされています。文献から特性や姿を基にされているそうですが、山田章博さんが描かれる獣たちは想像を超えた迫力と美しさなので、小野さんも、楽しみにされています。


新装幀にあたり、山田章博氏を起用した理由は?

 今から21年前の『魔性の子』も山田氏にカバー画をお願いしていますが、X文庫のシリーズもそうです。言葉で丹念に描写された物語に登場する人物の一人一人、霊獣や妖魔、そして景色までもが、精緻な筆使いと躍動感に溢れています。この作品を描いていただくのは、絵師・山田章博さんのほかには考えられませんでした。


〈完全版〉はカバー画も挿絵も、全て新しくなりましたが。



 全作、新装幀になりました。各巻5点ずつの挿絵も新たに描き下ろされています。21年前の『魔性の子』の刊行時は、前にも記した通りシリーズ化は想定されていませんでした。今回、新しくなった『魔性の子』のイラストは、後に続く物語との繋がりをうかがわせる趣があります。この作品に挿絵が入るのは、今回が初めてとなり、どのイラストもドキドキします。
また、カバー裏には各話のキーとなる霊獣や妖獣のモチーフが、そして背には、全巻を並べると連続模様になる飾りが施されています。


本文の大幅なリライトはありますか?


 大幅な加筆はありませんが、表現や文字づかいの一部が修正されました。とくに、『魔性の子』は著者の手が入るのは20余年ぶりなので、細かく見直していただき、修正が施されました。
10月新刊の『風の海 迷宮の岸』も、先日、著者校正をいただきましたが、要所ごとに、描写の修正が入りました。


どのような方に読んで欲しい作品なのでしょうか?

 とくに限定はしませんが、7月に刊行された2作は高校生が主人公なので、同世代にとってはまさに等身大。そういう若い世代には、ぜひ読んでいただきたいです。ダイレクトに響く内容が詰まっているので、その時期に読まないのは勿体ないと思います。

しかし、シリーズを通して描かれるテーマは世代を超えた内容です。世代や性別には関係なく、読む者の立場や状況によって、それぞれの受け止め方ができると考えます。皆さん、学校で会社で、そして家庭でも、何かしらの問題を抱えていることと思います。読む時の年齢や立場の違いによって、対峙する問題は異なりますが、生きていく道程や幸せの在り方について、自身の現実に重ね合わせ考えることができます。そして年齢や地位の上下とは関係なく、「豊かな心」を持つという意味を教えられ、いつも背筋が伸びます。

また、歴史小説が好きな男性にもお薦めです。政治的な仕組みや役割は、会社や家族を支えるお父さん世代にも、ずっしり響きます。
こうした点が、20余年にわたり世代を超えて支持されている理由ではないでしょうか。


「十二国記」の魅力とは?

 「これまでで、これほど繰り返し読んだ小説はない!」「辛い時にいつも支えてくれて、勇気をくれたのは、この本」という声が多く寄せられています。
この作品は、現実と異世界とを舞台にした小説ですが、描かれているテーマはとてもリアルです。『月の影~』の解説で、北上次郎氏が述べられているとおり、ファンタジックな設定は、この物語の衣装にすぎません。特別な能力を宿して、あらゆることが可能になるわけではなく、勧善懲悪でもありません。物語の登場人物を通して、人生の中で抱える悩みや困難、国や政治の仕組みに至るまで、現実に照らし合わせて考えることができます。全編に貫かれているのは、生きることの難しさと如何に対峙していくかであると思います。混迷の時代だからこそ、多くの方に読んでいただきたい作品です。


刊行スケジュールを教えてください。

 次の『風の海 迷宮の岸』は、2012年10月新刊(9月28日発売)です。
以下刊行予定は、随時発表いたします。




「十二国記」新潮社公式サイトでは、刊行予定や、イラストの情報などを随時お知らせしています。また、公式TwitterFacebookページでも情報を発信しています。
先日、Twitterフォロワー20000人突破を記念し「初めて読む方へお薦めするコメント」を募集するキャンペーンを行ったところ、1000通を超えるお薦めコメントをいただきました。
開催中は日々熱いコメントが寄せられ、多くのファンに待望されていることを実感しました、とSさん。これからも、新たな企画を予定しているそうです。

AN


・「十二国記」新潮社公式サイト://www.shinchosha.co.jp/12kokuki/
・「十二国記通信 麒麟便り」(公式ブログ)//www.shinchosha.co.jp/12kokuki/log/
・公式Twitter:http://twitter.com/#!/12koku_shincho
・Facebookページ://www.facebook.com/12kokuki

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
2012年08月10日   今月の1冊
  •    
  •