ホーム > 書籍詳細:反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体―

民主主義の破壊者か。あるいは格差是正の救世主か。

反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体―

森本あんり/著

1,404円(税込)

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発売日:2015/02/20

読み仮名 ハンチセイシュギアメリカガウンダネツビョウノショウタイ
シリーズ名 新潮選書
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 282ページ
ISBN 978-4-10-603764-1
C-CODE 0316
ジャンル 哲学・思想
定価 1,404円
電子書籍 価格 1,123円
電子書籍 配信開始日 2015/08/14

アメリカでは、なぜ反インテリの風潮が強いのか。なぜキリスト教が異様に盛んなのか。なぜビジネスマンが自己啓発に熱心なのか。なぜ政治が極端な道徳主義に走るのか。そのすべての謎を解く鍵は、米国のキリスト教が育んだ「反知性主義」にある。反知性主義の歴史を辿りながら、その恐るべきパワーと意外な効用を描く。

著者プロフィール

森本あんり モリモト・アンリ

1956年、神奈川県生まれ。国際基督教大学(ICU)人文科学科卒。東京神学大学大学院を経て、プリンストン神学大学院博士課程修了(組織神学)。プリンストンやバークレーで客員教授を務める。国際基督教大学牧師、同大学人文科学科教授等を経て、2012年より同大学学務副学長。主な著作に『ジョナサン・エドワーズ研究』『現代に語りかけるキリスト教』『アジア神学講義』『アメリカ・キリスト教史』『アメリカ的理念の身体』等。

書評

アメリカの反知性主義の根幹

竹内洋

 二〇〇一年に小泉純一郎が自民党総裁に就任する。「自民党をぶっ壊す」「郵政改革に反対する者は抵抗勢力」などのワンフレーズが選挙民に訴求力をもった。テレビを舞台としたその政治手法は「小泉劇場」といわれ、ポピュリズムという用語がリアルになりはじめた。ポピュリズムは既得権への攻撃という情念の政治であるから、反知性主義と手を携えている。
 はたせるかな、そのあと「本を読んで、くっちゃべっているだけ、役立たずの学者文化人」という橋下大阪市長の臆面なき発言に象徴される反知性主義的空気がたちこめてきた。日本社会のヤンキー化という論題もでてきた。ヤンキーは、くだくだしい理屈を毛嫌いし、インテリ系をオタクとして憎み蔑む。ヤンキー・ハビトゥスという反知性主義が前景化しはじめたのである。
 反知性主義といえば、アメリカをただちに思い浮かべる。その分析の金字塔といわれるものがホフスタッター『アメリカの反知性主義』である。反知性主義の歴史的原因がつぎのようにいわれている。知識階級ではなく、庶民の英知を持ち上げた人民民主主義の政治の唱道。実用一点ばりの大衆教育重視。そして、その根源がアメリカの宗教生活の特異性、つまり福音主義(回心にもとづき教会よりも聖書に立ち返る宗教改革運動)の宗教的民主主義にあるとしている。
 ところがこの肝心要の宗教的反知性主義のホフスタッターの説明が、複雑なアメリカ宗教の布置に疎い日本人読者には実にわかりにくい。評者もこの大事な部分を途中で放棄してつぎの章に移ったことを憶えている。それだけに喉にひっかかった小骨のような思いをひきずってきたが、本書の精緻かつ巧みな筆力によって、見事にその骨がとれた。
 本書は、アメリカに宗教的反知性主義が生まれたのは、初期のピューリタンの厳格といってもよい知性的な宗教生活とそれにもとづく知の支配へのバックラッシュだとする。貴族制の伝統を欠いたアメリカであればこそ知の支配はヨーロッパ以上のものになったからである。そこで生まれたのが福音主義的な信仰復興運動である。高邁な知性よりも素朴な無知や謙遜こそが信仰に大事とされ、神の前では万人が平等であり、誰でも司祭になり得るとされた。この宗教的反知性主義は宗教的民主主義であり、アメリカの反知性主義の根幹をなしているとする。
 そのためにフィニー、ムーディ、サンデーなどの福音伝道の立て役者のパフォーマンスのさまを動画をみるように臨場感あふれる筆致で描く。「日本教」ならぬアメリカ文化や政治のもとにある「アメリカ教」(アメリカ型キリスト教)の来歴と布置が手に取るようにわかる。
 著者が「はじめに」で言うように本書はホフスタッターの見立てを出発点にして書かれている。しかし、本書はホフスタッター本のわかりやすい版というわけではない。むしろホフスタッター本をアップグレードしている。ホフスタッター本はマッカーシズムの悪夢が覚めやらぬときに書かれたぶん反知性主義を病理としてしまっているのに対し、本書は反知性主義にネガティブなレッテルを貼ることでよしとしないからである。
 アメリカの反知性主義が宗教的反知性主義に由来するということは、反知性主義が宗教的使命にうらづけられた「反権威主義」であるということだ。だから反知性主義は必ずしも知性そのものに対する反感ではない。知性が特権階級だけの独占的な所有物になることへの反発であるとしている。だから反知性主義には知識人が果たすべき役割もみられるという卓見も披露されている。吉本隆明の「大衆の原像」のひそみにならって言えば、「反知性主義の原像」を掬い上げているところが本書の圧巻部分である。
「あとがき」で著者は、真正の反知性主義がでるためには、「相手に負けないだけの優れた知性が必要だろう。と同時に、知性とはどこか別の世界から、自分に対する根本的な確信の根拠を得ていなければならない」。そういう反知性主義があらわれることで、既存の秩序と違う新しい価値の世界が切り拓かれると述べている。すぐれた洞察に舌を巻く力作である。

(たけうち・よう 社会学者)
波 2015年3月号より

目次

はじめに
プロローグ
レーガン大統領とピューリタン/祝福か滅びか/「契約」概念のアメリカ化/宗教の伝播とウィルス感染/単純な二本線の論理/幸福の神義論/反知性主義の成分要素
第一章 ハーバード大学 反知性主義の前提

1.極端な知性主義
リバイバリズムを生む土壌/高学歴社会/ハーバード大学の設立/牧師養成の神学校として/一般教養の大学として/神学ではなく教養/学部と大学院/「万人祭司制」の教育/カトリックの神学教育/その後の高等教育
2.ピューリタンの生活ぶり
教会の成り立ち/高度に知的な礼拝/実像のピューリタン/水没した学長
第二章 信仰復興運動 反知性主義の原点

1.宗教的熱狂の伝統
テレビ伝道者と大統領選挙/信仰復興運動の発端/「誠実な報告者」エドワーズ/信仰復興はなぜ起きたか/幼児洗礼と半途契約/教会員籍と公民資格/人口増と印刷業の発展/メディアとコンテンツの循環
2.「神の行商人」
「メソポタミア」の一言で/フランクリンとの出会い/フランクリンの絶賛/メディアの活用/ホイットフィールドとエドワーズ/歴史の証言者になるとは/伝道集会の規模
3.反知性主義の原点
なぜ野外集会なのか/古女房かコーラスダンサーか/反知性主義の決めぜりふ/原点への回帰/「熱心」の逸脱/「詐欺師」の伝統/信仰復興と「アメリカ」の成立
第三章 反知性主義を育む平等の理念

1.アメリカの不平等
平等理念のプロテスタント的起源/平等は画に描いた餅か/平等の超越的な根拠/宗教的には平等だが/宗教的反逆と政治的反逆/ニューイングランドの矛盾
2.宗教改革左派とセクト主義
第三の改革勢力/チャーチ型とセクト型/ミュンスターの惨劇/迫害への抵抗/法律違反という挑戦/クエーカーの過激な平等主義/フランクリンとクエーカー
3.宗教勢力と政治勢力の結合
建国父祖たちとの協力/マディソンの確信/アメリカ的な政教分離の真意/窮地に陥ったジェファソン/反知性主義を育む平等論/大きな政府への警戒心/「キリスト教国アメリカ」の意味
第四章 アメリカ的な自然と知性の融合

1.釣りと宗教
「リバー・ランズ・スルー・イット」/自然の法に聞き従う/語り得ないものを伝える
2.「理性の詩人」と「森の賢者」
自然と魂との連続/映画化された哲学/エマソンの反知性主義/ヨーロッパ的な知性に抗して/ラディカル・セクトとの共通性/「森の賢者」ソロー
第五章 反知性主義と大衆リバイバリズム

1.第二次信仰復興運動
広がりゆくアメリカ/メソジスト教会の発展/「読み書きのできるバプテスト」/バプテスト教会の発展/諸教派の乱立
2.反知性主義のヒーロー
間抜けなロバ/ジャクソンの生い立ち/「読み書きのできるアダムズ」/大衆動員による選挙/反知性主義の使命/ジャクソン政権の遺産/ジェントルマンの凋落/ほら話のできるヒーロー/詐欺師の伝統/強者をやっつける反知性主義
3.リバイバルのテクニック
チャールズ・フィニー/弁護士のように説教を語る/宗教か呪術か/リバイバルは奇跡ではない/リバイバルのプロデューサー/女性と黒人の平等へ
第六章 反知性主義のもう一つのエンジン

1.巨大産業化するリバイバル
第三次信仰復興運動/子どもたちの日曜学校から/独立系教会のはじまり/理想のビジネスモデル/イギリスへの伝道旅行/体制派知識人の反発/スコットランド教会の立場/困惑するリベラリズム/唯物論者エンゲルスの見解
2.信仰とビジネスの融合
徹底した組織化/リバイバル集会の会場/資金と報酬/巡回セールスの起源
3.宗教の娯楽化
元祖パブリック・ビューイング/音楽家サンキーの魅力/秩序立った興奮/「天助」と「自助」の相即/温和な反知性主義/宗教と現世の利益
第七章 「ハーバード主義」をぶっとばせ

1.反知性主義の完成
戦闘的な反知性主義のヒーロー/サンデーの生い立ち/大リーグ選手へ/野球のプロスポーツ化/二つの出会い/妻に釣り合う人間となるために/伝道者への転身/牧師資格の取得
2.知性の平等な国アメリカ
トクヴィルの驚き/知性の前進を促す反知性主義/「たたき上げ」の可能な時代/成功が成功を生む時代/アメリカン・ドリームの体現者/成功神話に隠された心理
3.アメリカ史を貫く成功の倫理
ショービジネス化する伝道集会/政教分離の副産物/リバイバルと音楽/ナショナリズムへの傾斜/反知性主義の変質/キリスト教の土着化/素朴な道徳主義/矛盾に満ちた晩年
エピローグ
知性とは何か/知性をもつのはどんな人か/反知性主義とは何か/反知性主義が生まれた背景/反知性主義の存在意義/反知性主義のゆくえ/ポジティヴ病の現代アメリカ/反知性主義は輸出されるか
あとがき

担当編集者のひとこと

本のタイトルと「反知性主義」

 皆さんは、本屋に行くと、「~の正体」だの、「~のウソ」だの、「~が日本を滅ぼす」だの、“反知性的”な響きのタイトルが山のように並んでいて、げんなりすることはありませんか。そして、そのような本をついつい手に取ってしまう自分にも……。
 さて、本書もご多分に漏れず、サブタイトルに「アメリカが生んだ『熱病』の正体」とあり、さらには帯に「いま世界でもっとも危険なイデオロギーの根源」などと、おどろおどろしい文字が並んでいます。
 なぜ出版社はそのようなタイトルを好んで付け、読者もわざわざそのような本を選んで買ってしまうのか――?
(注:もちろん「私は違う」という人もたくさんいらっしゃると思います。あくまで統計上の傾向の話です)
 この奇妙な共犯関係のメカニズムを、本書はきわめて明晰に説明してくれます。詳しくは本書でお読みいただきたいと思いますが、救われるのは、その共犯関係にある種の正当性、すなわち社会の健全性を維持する役割があると主張してくれていることです。少なくとも、知的エリートの意に沿う四角四面の本しか書店に並ばなくなったら、民主主義社会は窒息してしまうだろうという考えには、多くの人が賛成してくれるのではないでしょうか。
 と言うわけで、これからも堂々と“反知性的”な響きを持つタイトルを付けていこうと思います。もちろん、著者の言う通り、中身の方に「既存の知性に負けないだけの優れた知性」があることが前提ですが。

2015/02/20

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