ホーム > 書籍詳細:戦争の日本中世史―「下剋上」は本当にあったのか―

源平合戦から応仁の乱まで、中世の二百年間ほど「死」が身近な時代はなかった――。

戦争の日本中世史―「下剋上」は本当にあったのか―

呉座勇一/著

1,620円(税込)

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発売日:2014/01/24

読み仮名 センソウノニホンチュウセイシゲコクジョウハホントウニアッタノカ
シリーズ名 新潮選書
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 335ページ
ISBN 978-4-10-603739-9
C-CODE 0321
ジャンル 日本史
定価 1,620円
電子書籍 価格 1,296円
電子書籍 配信開始日 2014/07/25

手柄より死を恐れた武士たち、悪人ばかりではなかった「悪党」、武家より勇ましいお公家さん、戦時立法だった一揆契状……「下剋上」の歴史観ばかりにとらわれず、今一度、史料をひもとき、現代の私たちの視点で捉え直してみれば、「戦争の時代」を生きた等身大の彼らの姿が見えてくる。注目の若手研究者が描く真の中世像。

著者プロフィール

呉座勇一 ゴザ・ユウイチ

1980年、東京都生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)学位取得。日本中世史専攻。現在、東京大学大学院人文社会系研究科研究員。著書に『一揆の原理―日本中世の一揆から現代のSNSまで』。

書評

不勉強な者ほど観念に走る

和田竜

 経緯は忘れたが高校生の頃、日本史の先生が水戸光圀の話を始め、「水戸黄門のTVドラマは欺瞞の最たるものだ。光圀は庶民を助けるが、そもそも庶民を困らせるような社会を作ったのは支配階級である武士たちだ」という意味のことを言った。
 当時の僕は、その議論の新鮮さと視点の置き方の斬新さに「なるほどっ」と膝を打ったものである。だが、いまとなっては、「そうは言ってもあの当時はあれが限界で、黄門さんもその時代の中でできることをやったんじゃないっすか」と思い、その先生の話を「無理があったなあ」とたまに思い出すことがある。
 この日本史の先生の歴史の捉え方は、本書でいう「マルクス主義の歴史観」あるいは「唯物史観」であろう。本文の言葉を要約すれば、搾取されている被支配階級が、支配階級に挑み社会を変革させていく、その階級闘争をもって歴史を評価するという歴史観である。
 本書はこの「唯物史観」に加え、先の大戦後の「反戦平和主義」が歴史、とりわけ戦に対する解釈に影を落としていると指摘する。過去の研究を踏まえつつ、それらの史観と主義を排除しながら語られる本書の戦は、僕にとってストンと腑に落ちるものだった。
「そういや、何か変だと思ってたんだよ」と思いながらも言葉にできず、「でも日本史の本に書いてあるんだからそうなんだろう」と思って放っておいたあの合戦や事柄が、実に人情にかなった形で語られる。「蒙古襲来」について教科書で語られ印象深いのは、当時の鎌倉武士は一騎打ちが基本で、集団戦を基本とする蒙古軍に名乗りを上げているうちに討ち取られたということだろう。
 この歴史を教えられた際、「何で鎌倉武士も集団で向かっていかなかったんだろう」と明確には思わなくても、「嘘でしょ」ときょとんとした覚えのある人は多いのではないか。でも教科書が言ってるんだから仕方がない。そんなものだったのかも知れんと首を傾げながら、授業は先に進んでいるという具合だったのではないだろうか。
 周知の通り、蒙古軍は優勢にもかかわらず船に引き上げ、撤収の途中で嵐だか台風だかに遭い、壊滅的な被害を受ける。だが、優勢なのに撤退したのはなぜか。本書の回答は単純である。考証は本文が面白いので省くが、「鎌倉武士が強かったから」だ。では、なぜ鎌倉武士は弱いとされたのか。本書では「反戦平和主義」の影響から「鎌倉武士は強かった」「日本軍は強かった」と主張することが憚られる風潮が生まれたのではないか、と指摘する。
 かといって本書の筆者は、日本人は唯物史観と反戦平和主義から脱却し、戦後レジーム(体制)から抜け出せと主張したいわけではない。このことは終章で語られるが、そのバランス感覚が絶妙で、具体を知る人の言葉だなと痛感した。不勉強な者ほど観念に走るものである。

(わだ・りょう 作家)
波 2014年2月号より

目次

はじめに――「戦争の時代」としての日本中世
第一章 蒙古襲来と鎌倉武士
「戦争」を知らない鎌倉武士/蒙古襲来は避けられた戦争?/鎌倉幕府の“平和ボケ”/一騎打ちは本当にあったのか/鎌倉武士の装備/武士団の構成/日本軍の弱点/「モンゴル軍優勢」という虚構/「神風」は吹いたか/モンゴル軍撤退の真因/戦後日本の「平和主義」/遺言状を書いて出陣/幕府権力の変質/「戦時体制」と鎮西御家人/鎌倉後期は「戦争の時代」か
第二章 「悪党」の時代
楠木正成は悪党?/『峯相記』に描かれた虚像/訴訟用語としての「悪党」/宗教用語としての「悪党」/「悪党」論の限界/有徳人=ヒルズ族の登場/有徳人はなぜ僧侶なのか/坊主の姿をした武士たち/「一円化」というサバイバル/「都鄙名誉の悪党」寺田法念 「悪党」は強かった?/なぜ鎌倉幕府は滅びたのか
第三章 南北朝内乱という新しい「戦争」
後醍醐天皇と足利尊氏/“圧勝”が後醍醐天皇を過信させた/足利尊氏は躁鬱病か?/東奔西走する兄・尊氏/「政道」を任された弟・直義/幕府の内紛で“六〇年戦争”に/守護と大将/転戦する武士たち/略奪という軍事作戦/兵粮料所の設定/半済令とは何か/陣夫と野伏/「戦術革命」はあったか
第四章 武士たちの南北朝サバイバル
戦いたくない武士たち/続出する戦死者/死地に赴く気構え/戦死以外のリスク/武士たちの危機管理型相続/一族団結の必要性/それでも団結は難しい/思いがけず長期化した内乱/「天下三分」はいい迷惑/遠征の忌避と「一円化」の進行/「危機管理システム」としての一揆/戦時立法だった一揆契状
第五章 指揮官たちの人心掌握術
催促か勧誘か/戦うお公家さん/北畠顕家の地方分権論/北畠親房は“上から目線”か/親房の「失敗の本質」/今川了俊は悲劇の名将か/足を引っ張られた了俊/大将はつらいよ/約束手形をばらまく/大義名分を説く/大将同士の交渉/軍勢の「勧進」/旅する僧侶/「勧進」も軍功/大将たちの「大本営発表」
第六章 武士たちの「戦後」
遠征は諸刃の剣/足利義詮の挫折/畠山国清の勘違い/遠征はもうこりごり/大内氏・山名氏の「降参」/応安大法は“大規模戦闘終結宣言”/戦闘態勢の解除/足利義満の一族離間策/内乱の幕引き/弓矢よさらば
終章 “戦後レジーム”の終わり
妥協の産物としての「室町の平和」/足利義持と諸大名の“手打ち”/“ハト派”の重鎮、畠山満家/「戦後レジームからの脱却」を目指して/室町幕府の「終わりの始まり」/追いつめられた赤松満祐/将軍犬死/「幕府を、取り戻す」/空洞化する京都/山名宗全と“戦後レジーム”/足利義政の錯誤/足軽と土一揆/村の“集団的自衛権”/勝者なき戦争/墓穴を掘って下剋上/平和は「きれい」か
参考文献
あとがき

キーワード

担当編集者のひとこと

唯物史観の「下剋上」を取り外して見えてくるもの

 日本史の教科書で中世史を語る際、必ずと言っていいほど出てくる言葉に「下剋上」があります。「武士や民衆など、台頭する新興勢力が上の者に取って代わる」こと、それをもって長きにわたる既存の秩序が解体され、中世は後の戦国時代へとつながる、社会の変革期と位置づけられています。
 そもそも「下剋上」の語源は、六世紀の中国、隋の時代の書物に溯るもの。それが日本に渡り、『源平盛衰記』の中に用例が見られるなど、十二世紀の初頭頃から使われ始めたようです。特に鎌倉幕府滅亡後の混乱期、京の二条河原に「下剋上する成出者(なりでもの)」との落書が描かれ、人口に膾炙するようになりました。農民は領主に反抗して一揆として蜂起し、武家の家臣は主家を滅ぼして守護、戦国大名に成り上がる――確かにそれはドラマチックな歴史観であり、乱世の社会風潮を表す分かりやすいキーワードなのかもしれません。ただ果して、この「下剋上」のみで中世という時代を見る尺度としてしまってよいのでしょうか?
 どうやら、中世=「下剋上」の固定観念は、戦後に普及したもののようです。先の大戦への反省から、戦後の歴史学の主流は反戦平和主義の色濃い唯物史観が占めるようになりました。搾取されていた被支配者階級が支配者階級に戦いを挑む、いわゆる「階級闘争」を思わせる「変革期」「革命」などの言葉と「下剋上」が重ね合わさり、一気に中世の代名詞となっていったのでした。そしてその中世史観は、六十年以上経った今日でも未だに変わらず教科書で教えられる通説となったままというわけなのです。
 本書は、この「下剋上」の“足枷”を一度完全に外してしまい、中世を「戦争の時代」として顧みようと試みた一冊です。二百年にわたる内乱期に行なわれた「戦」を変に捻じ曲げることなく、文献史料を虚心にひもとき、軍事軍略上の物理的な側面はもちろん、当時の人々がどのような意識、認識を持っていたのかまでも、丹念な検証を試みました。そしてそこには、今日の我々と少しも変わらぬ等身大の中世の人々の素顔が見えてきたのです……。

2016/04/27

つなぐ本×本 つながる読書<広がる世界

現代日本社会の様相と酷似していた室町を読む。

何も持たない者が、どのように世に立ち、いかにして個人として生きたか。

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