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私の少女マンガ講義

萩尾望都/著

1,650円(税込)

発売日:2018/03/30

  • 書籍

少女マンガの神様が、ついに少女マンガを語った!

日本の少女マンガは、世界で唯一つのメディアだ――マンガ界をつねに牽引するハギオモトが少女マンガ史をひもといた、イタリアの大学での講義を完全収録。創作作法や『ポーの一族』の新作『春の夢』など注目の自作についてもたっぷりと語り下ろす。少女マンガってなんでこんなに楽しいの? 魅力の秘密を萩尾先生が教えてくれます。

目次
少女マンガの岸辺で――まえがきにかえて 矢内裕子
I章 イタリアでの少女マンガ講義録
『リボンの騎士』から『大奥』ヘ――少女の、少女による、少女のためのメディア
少女マンガの歴史
マンガは幅広い年代に読まれている/一九五〇年代――『リボンの騎士』に託された思い/一九六〇年代――アメリカ文化への憧れ/一九七〇年代――社会現象を起こす少女マンガ/一九八〇年代――ニューウェーブの台頭/一九九〇年代――リアルな日常をオシャレな舞台に/二〇〇〇年代――少女マンガに流れるフェミニズム
自作についての解説
『半神』/『柳の木』/『ローマへの道』/『イグアナの娘』
質疑応答――イタリア人聴講者からの質問
イタリア人ジャーナリストによるインタビュー
II章 少女マンガの魅力を語る 読む・描く・生きる
少女マンガは生きている
新しい雑誌と作家たち/少女マンガの可能性を広げた時代/尽きないエネルギー
私の創作作法
描くペース/創作の秘密その1――『柳の木』/創作の秘密その2――『残酷な神が支配する』『バルバラ異界』/物語のつくりかた/コマ割りについて――マンガの基本 松本大洋、オノ・ナツメ、清水玲子、横山光輝、手塚治虫、ちばてつや、石ノ森章太郎、水野英子/コマ割りは個性 深見じゅん、里中満智子、大和和紀、井上雄彦、羽海野チカ、わたなべまさこ、美内すずえ/モーツァルトのようなコマ割りを/男性は少女マンガのコマ割りを理解できない?/誰が誰なのかわかるように描く/小説作品について/若いマンガ家たちへ伝えたいこと
III章 自作を語る 『なのはな』から『春の夢』へ――3・11以降の作品たち
『なのはな』――鎮魂のありか
『プルート夫人』『雨の夜―ウラノス伯爵―』『サロメ20xx』――放射性物質三部作
『福島ドライヴ』――音楽から生まれる物語
『なのはな―幻想『銀河鉄道の夜』』――日常への回帰
『王妃マルゴ』――愛とエロスの王朝ライフ
『AWAY』――子供が作る未来を信じる
『春の夢』――ドアを開けたら、ずっと彼らはそこで生きていた
萩尾望都氏との初対面 ジョルジョ・アミトラーノ
イタリアの秋――あとがきにかえて 矢内裕子

書誌情報

読み仮名 ワタシノショウジョマンガコウギ
装幀 萩尾望都/装画、『少年よ――萩尾望都イラスト詩集』(発行所:白泉社・発売元:集英社 1976年刊)より/カバー表・裏、表紙、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍
判型 四六判
頁数 224ページ
ISBN 978-4-10-399602-6
C-CODE 0079
ジャンル コミック
定価 1,650円

書評

少女マンガの贈り物

矢内裕子

 萩尾望都さんに初めてお会いしたのは偶然だった。
 書籍編集者だった私が担当していた研究者の方のお祝いの会に、萩尾さんがいらしていた。お召しになっていた着物の色のせいか、月暈のように、ぼうっと輝いているようだった。
 正確にいえば、高校生の頃、神保町の三省堂書店で開かれた萩尾さんのサイン会に早朝から並び、サインをしていただいたことがある。握手をお願いしたときのふんわりした柔らかな手に、驚いた。こんなに儚げな手を持った人が、圧倒されるばかりの作品を描いているのか。
 それから十年以上経っていたが、もちろん私は萩尾作品の愛読者だった。萩尾作品をはじめとする少女マンガを読むことで、自分の精神が守られ、失わずにすんだ――という気持ちは、年を経るごとにより強くなっていた。たんなる比喩ではなく、たとえば「誰でも、その人らしく生きてよい」ということを、作品を通して、萩尾さんは読者である少女たちに手渡してくれたのだと思う。萩尾作品のおかげで、自分は大事な部分を手にしたまま生き延びることができたのだ。
 いわば命の恩人である方に、思わぬところでめぐりあった。一生の思い出に、せめて御挨拶だけでも――と、名刺を渡して失礼しようとしたら、
「あちらに席をとっているから、座ってお話ししませんか」
 優しい声が、そう言った。
 夢見心地で萩尾さんのあとについていくと、ソファにマネジャーの城さんがいらした。座っている萩尾さんのところには、次々に編集者が挨拶にやってくる。どうして自分を誘ってくれたのか、不思議に思いながら、歌舞伎や演劇、ガリレオ・ガリレイの話をした。
「気になる歌舞伎役者はいますか」と尋ねると、踊りの名手、故中村富十郎の名前が返ってきた。「娘道成寺」を観たとき、「聞いたか坊主」の中で、ひときわ目を惹く踊り手がいて、それが富十郎だったのだそう。
「日本には、まだまだ宝物のような人がいますね」
 同じく天王寺屋贔屓だった私は大喜びで富十郎の話をして、「それでは歌舞伎見物に」ということになった。
 歌舞伎ばかりでなく、京都や雪の八甲田ホテル、伊勢、大阪、奄美大島での皆既日食ツアーなどに誘っていただいた。私の家族も一緒に、沖縄やイタリアを旅したこともある。
 と、書くと、なんだか余裕があるようだが、実際はお会いするたびにひどく緊張していた。なんといっても命の恩人に、粗相があっては大変ですから。
 十年が経つ頃にようやく緊張もほぐれてきて、「先生、本の企画をたてたいのです」と申し上げて、『夢見るビーズ物語』というコミックエッセイを出すことができた。萩尾さんのビーズ愛にあふれた本で、エドガーの人形、オスカー、メッシュ、フロルとタダの描き下ろしイラストも入っている、オールカラーの楽しい本だ(これは宣伝)。
 ちょうど『夢見るビーズ物語』を作っているときに、何度目かのイタリア旅行に御一緒して、家人がフィレンツェ大学の研究者の方々を御紹介する機会があった。そこから村上春樹吉本ばななのイタリア語訳でも知られる、ジョルジョ・アミトラーノさんに話がつながり、2009年にナポリ東洋大学とボローニャ大学、そしてローマの日本文化会館で講義をなさることになった。
『私の少女マンガ講義』は、三会場での萩尾さんの講義や質疑応答のほか、創作作法や3・11以降の作品について私が聞き手になったインタビューをまとめた一冊だ。
 講義のあとには興味深い質問がイタリアの聴衆から活発に出されたのだが、特に印象的だった女性がいる。
 三十代だという彼女は「子ども時代を少女マンガとともに過ごした」と言って、こう続けた。「少女マンガは私たちに強い女性像を示してくれました。たとえば男装しながらも戦っていくこと、あるいは(女性であっても)自分の夢を追求していけること。日本の少女マンガこそが、そういう考え方を私達に与えてくれたことに、心から感謝します」。
 ああ、あなたも! と、離れた席にいるその人に駆け寄りたい気持ちだった。少女マンガは日本に特異なメディアで、時代によって、読者である少女とともに変わり続けてきた。本書は、今や国境も越えている少女マンガの「贈り物」について、萩尾さん自身が語った一冊になっている。

(やない・ゆうこ ライター・エディター)
波 2018年4月号より
単行本刊行時掲載

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著者プロフィール

萩尾望都

ハギオ・モト

1949(昭和24)年、福岡県生れ。1969年、『ルルとミミ』でデビュー以来、SFやファンタジーなどを取り入れた壮大な作風で名作を生み出し続けている。1976年、『ポーの一族』『11人いる!』で小学館漫画賞、1997(平成9)年、『残酷な神が支配する』で手塚治虫文化賞マンガ優秀賞、2006年、『バルバラ異界』で日本SF大賞ほか受賞多数。2012年には少女マンガ家として初の紫綬褒章を受章。2017年、朝日賞を受賞。2019(令和元)年、文化功労者に選出。

判型違い(文庫)

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