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それぞれに無限の輝きを放つ、15の小さな場所。
待望の短篇集。

小山田浩子/著

1,836円(税込)

本の仕様

発売日:2018/03/30

読み仮名 ニワ
装幀 PHILIPPE WEISBECKER Hemipteres from “The Zoology”2016/装画、篠あゆみ/撮影、新潮社装幀室/装幀
雑誌から生まれた本 新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判
頁数 238ページ
ISBN 978-4-10-333643-3
C-CODE 0093
ジャンル 文学賞受賞作家
定価 1,836円

ふきのとう。ヒヒ。彼岸花。どじょう。葦。鶴。おたまじゃくし。ままならない日々を生きる人間のすぐそばで、虫や草花や動物たちが織り成す、息をのむような不可思議な世界。暮らしの中にある不条理と喜びを鮮やかに捉え、風景が静かに決定的に姿を変える瞬間を克明に描き出す、15篇の物語。芥川賞受賞後初著書となる作品集。

著者プロフィール

小山田浩子 オヤマダ・ヒロコ

1983年広島県生まれ。2010年「工場」で新潮新人賞受賞。2013年、初の著書『工場』が第26回三島由紀夫賞候補となる。同書で第30回織田作之助賞受賞。「穴」で第150回芥川龍之介賞受賞。

書評

あっさり濃密に

柴田元幸

『庭』。何ともあっさりした、1文字の書名。目次を開くと、収められた諸短篇も「うらぎゅう」「彼岸花」「延長」と簡潔な題が並ぶ。数えてみると、15篇で題の文字数は計47字で、1篇平均3・1字。これも相当あっさりしている。そう言えばこの書き手のこれまでの著作の書名も『工場』と『』だ。
 が、本文に移ると、どのページも字が詰まっていて、改行もあまりなく、会話があっても1人喋るごとに改行したりはせず、一段落に何人もの発言が盛り込まれていて、非常に濃密である。典型的な段落のごく一部を引用する。
「久しぶりに足を踏み入れた裏庭は涼しく湿っていた。苔がじっとりと黒緑色に水分を含み、小さな木の実のようなつぼみのようなもののついた茎を伸ばしている。僕のつっかけの下でじわじわと水気が滲んだ。苔の上に二人がしゃがんで地面に手をついていた。同じ一点を見ているようだが、そこはポンプの跡ではなかった。孫の傍に置いてある小さなビニール袋には、熱帯魚の世話をするような小さな網が入っていた。『ああ奥さん。開かないの、私たちじゃ固くって』祖母が皺だらけの白い指で苔の上を示した。苔の中に細長い黒い隙間が開いている。隙間? 地面に隙間? 『私も手伝います』妻もしゃがみこんだ。僕が呆然と立っているのを尻目に三人の女性は『せえの』声をあわせると、その細長い隙間にそれぞれに指を突っこんでぐっと力を入れた」(「どじょう」)
 書名・作品名のあっさり感と、本文の濃密感。この共存に、この書き手独特の味わいが端的に表われているように思う。
 共存ということでいえば、現実的な要素と幻想的な要素の共存ということも目につく。夫婦、家族、企業といった場でのいかにも日常的な営みと、ひとまず幻想的と言っていいような出来事が、ひとつの作品の――往々にしてひとつの段落の――なかで共存している。現実から幻想へのスムーズな移行というのは現代日本の作家たちが(特に女性作家たちが)得意とするところだが、この人はとりわけ自然にそれをやってのける。苔、彼岸花、どじょう、カエル、蟹、クモ等々地味めの動植物をとっかかりに、するっと幻想に流れ込んでいく。幻想に入り込む登場人物の感性が讃えられたりもしない。ファンファーレはほぼナシ(あっさり)、だが書き込みは十分(濃密)。
 もっとも、この書き手に関してはそもそも、現実/幻想という区分そのものが無効だと考えるべきであるようだ。僕は2017年5月にボストンとニューヨークで、自分がやっている英語文芸誌の刊行記念として小山田さんにアメリカ人作家ブライアン・エヴンソンと対話してもらったのだが、その際2人の意見が何より一致していたのは、「幻想」というレッテルが貼られるものの大半は、当事者(登場人物and/or書き手)にとってはまぎれもない「現実」だということだった。
 それにむろん、夫婦や会社といった「現実」に登場人物たちが対処していくなかで浮かび上がるのは、「現実」そのものの幻想性、不条理性である。といって、登場人物もしくは書き手が「世界は不条理なものだ」と涼しい顔をしていられるわけではない。現実の居心地の悪さ、面倒臭さはしっかりあって読者にまで伝染する。そこでも、不条理を感じている人物の感性が称揚されたりはしないから、生まれるのは自己肯定ではなくトホホ感、ユーモアである(一番おかしかったのは、同僚から何を言われても「そうですね」くらいしか言わず飲み会でも聞き手&食べ手に徹している語り手が、「うちの三人ボウズなんて、まあほっぽって育ててるけど、ちょっとしたジャングルに放したって多分生き延びるんじゃない、なんか実とか探してきてさ、芋虫食べたりさ、食べれる芋虫いるでしょ、ジャングルに」と言われたときだけは「カミキリムシの幼虫とかですね」と即答するところ〔「予報」〕)。
 15短篇(うち3本は超短篇)どれも面白いが、特に際立つのは「動物園の迷子」と「庭声」。前者は「音楽の出てくる小説を」、後者は「谷崎潤一郎へのトリビュートを」との要請に応えて書かれた。どちらも「仕掛け」があるわけで、もしかしたらほか13本がいわばしっかり「地」を形成しているからこそ、この2本が「図」として際立つのかもしれないが、とにかく各文芸誌の編集者諸氏は、まだまだいろんな引き出しがありそうなこの書き手に、あれこれ難題を吹っかけるといいんじゃないでしょうか。

(しばた・もとゆき 翻訳家)
波 2018年4月号より
単行本刊行時掲載

目次

うらぎゅう
彼岸花
延長
動物園の迷子
うかつ
叔母を訪ねる
どじょう
庭声
名犬
広い庭
予報
世話

緑菓子
家グモ

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