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本当の強さとは何か

増田俊也/著 、中井祐樹/著

1,430円(税込)

発売日:2016/07/15

  • 書籍
  • 電子書籍あり

格闘技界最大レジェンドの「真の強さ」に、大宅賞作家が肉薄する最強本!

柔道と柔術を極めた「伝説の格闘家」と、木村政彦の遺志を伝え続ける作家による最強対談。相手の反則で、24歳で片目失明により総合格闘家を引退するも、数年後には柔術家として復活。日本柔術界トップとして多くの弟子を育てている中井の「強さ」の神髄に増田が迫る。二人が共に汗を流した、七帝柔道(北大)の秘話も満載!

目次
ユーキ・ナカイという偉大なる男 増田俊也
第一章 北大柔道部とプロ修斗の頃
映画『SP野望篇』で見せた本物の技
プロレスファンが格闘技に目覚めるまで
「中井さんは柔道場に住んでいる」
シューティング入りの裏話
デビュー戦は「キムラ」で極めた
アルティメット大会が日本に与えた衝撃
ゴルドー戦について、いま思うこと
ブラジリアン柔術への転向
「楽しんでやる」柔術カルチャーの神髄
柔術でビジネスシステムを構築する
第二章 強い「指導者」として
自分の総合格闘技道場を開く
日本柔道が世界で勝つためには
中井流指導法の確立
非合理的な練習から生まれる本当の力
「したい」ではなく「絶対にやる」という信念
「下になったほうが美味しいじゃん」
キッズ選手たちをどうやって伸ばすか
指導者は何かを追いかけないとだめ
第三章 柔らかな思考こそ強さを生む
日大と慶應の柔道部を指導
七帝戦が凄いことになっている
乱取り中心主義の問題点
日本の「スポーツ文化」の問題点
日本のスポーツを変えたのは誰か
柔道人口減少と町道場文化の復活
日本の出稽古文化を絶やすな
柔道ルールはここまで変わった
講道館柔道にプライドを持て
第四章 護身術と、護身的思考
本当の「護身術」とは何か
女性に一番適した護身術は
体を鍛えておくことの重要性
勝敗だけで人生の全体は語れない
人間的強さを身につける最適の方法
強豪校の入口に立てる七帝柔道
中井の得意技「文子絞め」を考案した意外な人物
文化遺産的な七帝ルールも遺すべき
塗り替わってきた格闘技地図
第五章 強くあれ。そして考える人であれ
人間的強さの源泉とは
中井ジムの強さの秘密
RIZINを観戦して思ったこと
クロン・グレイシーはさすがの強さ
日本柔道と日本柔術のこれから
柔術の普及により生まれた「歪み」
いまこそ武専の復活が必要だ
中井スタイルはウィンドウズ方式
私の格闘技精神がすべて詰まった本 中井祐樹

書誌情報

読み仮名 ホントウノツヨサトハナニカ
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判
頁数 240ページ
ISBN 978-4-10-330072-4
C-CODE 0095
ジャンル スポーツ
定価 1,430円
電子書籍 価格 1,144円
電子書籍 配信開始日 2017/01/13

書評

中井祐樹という生き方

夢枕獏

 一九九三年くらいから中井祐樹の試合は観戦していたはずなのだが、ぼくにとって彼が特別な存在になったのは、一九九四年九月二十六日、後楽園ホールでやったブラジル人アートゥー・カチャーとの試合からである。ぼくはその日、会場でその試合を見た。そしてその試合によってようやく、ぼくは中井祐樹という格闘家の特異点に気がついたのであった。
 というのも、その前年一九九三年十一月十二日、アメリカのデンバーにおいて、当時にあっては異形の格闘技「アルティメット大会」が始まっていたからである。この大会の第一回目の試合が開催される半年くらい前から、ぼくは主催者であるホリオン・グレイシーと連絡をとりあっていて、
「ふたりの男が金網の中に入ってゆき、ひとりの男が出てくる」
 という刺激的なキャッチコピーを知らされていたのである。この試合、なんと眼への攻撃と噛みつきだけが禁止で、あとは全ての攻撃がルール上、許されていた。体重制限もなし。このルール、なんと古代オリンピックで行われていたパンクラチオンという競技とまったく同じであった。この「アルティメット大会」は、前記した中井対カチャー戦までの間にすでに三回開催されていたのである。
 このルールで、ブラジリアン柔術出身のバーリトゥーダーや、身体の大きな外国人選手にどうやったら日本人が勝てるのか。そんなことを自分なりに考えあぐねていた時期に中井祐樹という答えをぼくは発見したのである。
 この試合でアートゥー・カチャーに中井祐樹が引き分けた。そして、我々は中井祐樹の出身母体となった七帝柔道(当時は高専柔道として紹介された)という異形の柔道――柔術の香りを色濃く残した競技の存在を知ることになったのである。
 中井祐樹という人間の大きな徳は、いつでもオープンマインドであるということだ。かつては、格闘技の団体が違えば、交流はほとんどなかった。選手どうしは団体が違っても仲がいいというケースはあったものの、ある団体の選手が他団体のリングに上がるということはほとんどなかったと言っていい。その垣根は今はかなり取りはらわれていて、多くの選手が、幾つもの団体のリングに上がることができる状況が生まれている。このことの最大の功労者は中井祐樹である。中井祐樹の顔は、どの格闘技団体の試合会場に行ってもあったし、大道塾という空手(現在は空道と呼ばれている)団体の試合会場にも中井祐樹の顔があった。
 そのことの意味が、本書を読むことによってあらためて読み手に伝わってくる。それは聞き手が、七帝柔道の先輩である増田俊也であるというところが大きい。増田俊也であるからこそ引き出せた話や、中井祐樹の本音に近い話が少なからずある。
 ぼくにとって、それは、
『「UFCチャンピオンになります」って言っても絶対になれないです。絶対無理です。「UFC出たいです」、出れないです。絶対無理です。20回くらい防衛して、アメリカで大スターになって、アメリカの舗道に手形を残すスーパースターになってる自分を描くぐらいの突き抜けた練習量、突き抜けた非合理的な努力をしないと絶対に無理です』
 と中井祐樹が言うあたりである。その一方でまた、
『でも人が上手くなるってそういうことじゃないですよね。何年間で結果が出るっていうものじゃないですよ。そういう意味ではオリンピックとか厳しいですけど、でも本当に本質的なことを考えたら、そういうものじゃない。その人の完成が4年間じゃなきゃいけないっていうわけじゃない』
 このようにも語っているのである。
 本書でも語られているが、今日、柔道ルールは、オリンピックに偏りすぎている。柔道はもう伝える者がほとんどいなくなりつつある古流柔術に対して責任を負っていると思うのである。オリンピック柔道をやる一方で、そういう古流の技術や精神を伝えてゆくルールで、せめて二年に一回ずつくらいは試合を開催してくれないものか。試合がないと技術は忘れられてしまうものだからである。
 格闘家であるぼくの友人が言った言葉がある。
「試合前の稽古って辛いんですよ。でもすごく充実してるんです。このごろはようやく、試合のために稽古をするんじゃなくて、この充実した時間のために試合があるんだって思えるようになりました」
 本書はつまり、人の生き方、志についての本であったというのが読んだ実感である。

(ゆめまくら・ばく 作家)
波 2016年8月号より

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著者プロフィール

増田俊也

マスダ・トシナリ

1965(昭和40)年生れ。小説家。北海道大学中退後、新聞記者に。2006(平成18)年『シャトゥーン ヒグマの森』で第5回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し小説家としてデビュー。2012年『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』で大宅壮一ノンフィクション賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。他の著書に北海道大学での青春時代をモチーフにした自伝的小説『七帝柔道記』、『VTJ 前夜の中井祐樹 七帝柔道記外伝』『木村政彦 外伝』などがある。『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』は原田久仁信の作画により『KIMURA』の題名で漫画化されている。

中井祐樹

ナカイ・ユウキ

ブラジリアン柔術家、元総合格闘家。1970年、北海道浜益村生まれ。北海道大学法学部中退。札幌北高校ではレスリング部だったが、北海道大学で寝技中、心の七帝柔道に出会い、柔道に転向。七帝戦で北大を12年ぶりの優勝に導き、4年生の夏に大学中退。上京してプロシューティンブー(現在のプロ修斗)に入門、打撃技も身に付けて総合格闘家に。1994年、プロ修斗第2代ウェルター級王者に就き、1995年のバーリトゥード・ジャパン・オープン95に最軽量の71キロで出場。1回戦のジェラルド・ゴルドー戦で右眼を失明しながら勝ち上がり、決勝でヒクソン・グレイシーと戦う。このときの右眼失明で総合格闘技引退を余儀なくされたがブラジリアン柔術家として復活。現在、日本ブラジリアン柔術連盟会長、パラエストラ東京代表。

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