ホーム > 書籍詳細:棲月―隠蔽捜査7―

竜崎伸也、大森署最後の事件!?
正体不明の敵に立ち向かう、激動の長編第7弾。

棲月―隠蔽捜査7―

今野敏/著

1,728円(税込)

本の仕様

立ち読みする

発売日:2018/01/22

読み仮名 セイゲツインペイソウサ07
装幀 広瀬達郎(新潮社写真部)/写真、新潮社装幀室/装幀
雑誌から生まれた本 小説新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 334ページ
ISBN 978-4-10-300259-8
C-CODE 0093
ジャンル 文学・評論
定価 1,728円

私鉄と銀行のシステムが次々にダウン。不審に思った大森署署長・竜崎は、いち早く署員を向かわせるが、警視庁の生安部長から横槍が入る。さらに、管内で殺人事件が発生。電話で話した同期の伊丹から「異動の噂が出ている」と告げられた竜崎は、これまでになく動揺する自分に戸惑っていた――。大人気警察小説シリーズ、待望の第9作!

著者プロフィール

今野敏 コンノ・ビン

1955年北海道生まれ。上智大学在学中の1978年に「怪物が街にやってくる」で問題小説新人賞を受賞。レコード会社勤務を経て、執筆に専念する。2006年、『隠蔽捜査』で吉川英治文学新人賞を、2008年、『果断 隠蔽捜査2』で山本周五郎賞と日本推理作家協会賞を、2017年、「隠蔽捜査」シリーズで吉川英治文庫賞を受賞する。さまざまなタイプのエンターテインメントを手がけているが、警察小説の書き手としての評価も高い。近著に『継続捜査ゼミ』『サーベル警視庁』『回帰 警視庁強行犯係・樋口顕』『アンカー』『変幻』など。

書評

竜崎伸也、遂に転勤!?

池上彰

 隠蔽捜査シリーズも遂に7冊目となった。実は3冊目の次に3.5、5冊目の次に5.5という短編集が出ているので、それも合わせると9冊になる。今野敏は、さまざまなジャンルの小説を書いているし、警察が舞台のシリーズも多いのだが、私にとって格別なのは、この隠蔽捜査シリーズだ。主役の設定がユニークだからだ。
 警察庁のエリートキャリア官僚だった竜崎伸也は、家庭内の不祥事によって、警視庁管内の大森警察署の署長に左遷される。警察署長という役職は、通常は警視か警視正の身分だが、竜崎は警視正の上の警視長という高位の身分のままで警察署長に降格処分になっている。
 このため、大森警察署を管轄する第二方面本部の本部長や管理官も身分は下なので竜崎には強く出られない。
 さらに竜崎の立場を強くするのは、警視庁の伊丹俊太郎刑事部長が警察同期で幼馴染みだからだ。竜崎は、捜査の過程でしばしば伊丹刑事部長と電話をする。対等な口をきく竜崎の態度に、周囲の警察官は仰天する。こんな逆転現象の設定で話が進むのが隠蔽捜査シリーズだ。
 今回起きた事件はサイバー犯罪だ。私鉄と都市銀行のシステムがほぼ同時にダウンした。偶然なのか。「偶然などというのは、警察官の考えることじゃない」と言い切る竜崎署長。システムダウンした鉄道会社と都市銀行の所在地は大森署管内ではないのに捜査員を送り込む。管轄かどうかなどとうるさく言う役人根性とは無縁の竜崎の面目躍如だ。
 しかし、これには警視庁の管轄の部長が異議を挟む。さらには第二方面本部長も登場し、投入した捜査員を引き揚げさせるように求める。この官僚組織ぶり。警察は巨大な官僚組織だ。今野敏の小説では、この官僚組織の描写が秀逸だ。
 ここに今度は殺人事件発生。となれば、今野敏ファンなら、サイバー犯罪と殺人事件が無関係であるはずがないと推理するだろう。果たして思わぬ展開が待っている。
 殺人事件の被害者は18歳の少年。大森署の少年係が以前からマークしていた不良少年だった。それが、なぜサイバー犯罪と関係するのか。読者の推理心を掻き立てる。
 今野敏の隠蔽捜査シリーズでは、事件の捜査と並行して、家庭内での問題が生起するのも特徴だ。今回は、竜崎を散々悩ませてきた息子の邦彦がポーランドに留学したいと言い出す。困惑する竜崎……。という展開ならお馴染みだが、今回はさらに竜崎の転勤の話が舞い込んでくる。
 警察のキャリア官僚に転勤はつきものだ。2~3年ごとの転勤は当たり前。いったんは大森署に左遷された竜崎だが、実績を積み重ねてきたのだから、元のエリートコースの軌道に戻るのは当然のこと。ところが竜崎は動揺する。なぜなのか。ここに私は竜崎の成長ぶりを見る。
 エリートコースの階段を順当に登ってきた竜崎は、所轄と称される警察署を低く見ていた。ノンキャリアの警察官のことも信用していなかった。大森署に赴任したばかりの頃は、合理主義一辺倒で、部下たちに煙たがられる。
 ところが、大森署の現場の捜査員たちと仕事をするようになって、彼らの仕事ぶりを見直すことになる。署長ながら最前線に出て指揮を執るようになり、竜崎と現場の捜査員たちの間に心の交流が垣間見えるようになってくるのだ。これがシリーズ物の魅力だ。読者はシリーズを読み進めることで竜崎の成長ぶりも見ることができる。
 捜査が進展するにつれ、竜崎の異動先も明らかになってくる。転勤先を知って、頷く人もいることだろう。このシリーズの5で、竜崎は、そこの県警に乗り込んで摩擦を引き起こしているからだ。察しのいい人ならば、「竜崎はいずれここの県警本部に着任することになるのではないか」と推理できたはずだ。実は私も、そのひとり。思わず膝を叩いた。大森署を離れても、また別の活躍の場が用意されているはずだ。
 とはいえ、すっかり慣れ親しんだ大森署が名残り惜しい。そう思うのは、私だけではないだろう。本書の最後で、竜崎がなぜ転勤の話を聞いて動揺したかの理由が明らかになる。竜崎は、明らかに人間として成長したのだ。

(いけがみ・あきら ジャーナリスト)
波 2018年2月号より

インタビュー/対談/エッセイ

作家生活40周年を迎えて

今野敏

1978年にデビューし、今年2018年、作家生活40周年を迎えられる今野さん。 その記念の年の第1作として、大人気警察小説「隠蔽捜査」シリーズの最新作が刊行されます。今作に込めた思い、そして40周年を迎えての思いを伺いました。

――ファン待望の「隠蔽捜査」シリーズ最新刊が、ついに発売となりました。長編7作目、スピンオフ短編集も含めるとシリーズ全体では9冊目となります。今回のお話はどこから構想されたのでしょうか。

 今回はまずタイトルが先にありました。実は妻が夢で、『棲月』というタイトルの本で私が賞を獲ったのを見たというんです。それを聞いて、珍しいタイトルだけど挑戦してみようかと思いました。月に棲む、というタイトルからまず初めに連想したのは「セーラームーン」。ただ、それはさすがにないだろうと。それで、次に思い浮かんだのが、「クラウド」でした。クラウド・コンピューティングはネットワークを雲に見立てたことから来た呼び名ですが、雲の上の人、すなわち月に棲む人というのをなんとなく連想したんです。そこから、ではPCやハッカーを登場させよう、と膨らんでいきました。
 もうひとつ、前作から主人公・竜崎の異動の予告をずっと引っ張っていたので、そこも絡めて書こうというのは予め決めていました。

――竜崎は今回、ネットを介した、姿の見えない敵を相手にしています。書かれる上でのご苦労などはありましたか。

 苦労ということではないですが、1か月経つと新しい技術が出てきてしまう分野なので、情報が古びないようにということは気を付けました。「小説新潮」での連載が完結し、本になるまでにも、ある程度時間がかかりますから。ハッキングの技術等については、詳しく書けば書くほど古くなってしまうので、なるべくそれらしく、でもある程度はぼやかして書くようにしています。

――さらに今回は、いつも冷静沈着な竜崎が、今までにない自分の感情に戸惑うという場面も出てきます。

 大森署にいることで、唐変木の竜崎がどう変わったのか、というところを今回は描いています。一方で、芯の部分はブレないようにしないと竜崎ではなくなってしまうので、そのさじ加減にはかなり神経を使いました。

――戸高と根岸のコンビも大活躍しますね。

 あの2人、結構いいコンビだなと思っているんです。もともと女性があまり出てこない作品だったので、根岸のような立ち位置のキャラクターがいるといいですよね。戸高とのコンビネーションも、アンバランスだけど補いあっているのがいい。戸高は、一匹狼で他人の指図は受けないように見えて、実は完全に根岸に引っ張られているんですよね。それも面白いところです。

ドラマ化による新たな刺激も

――以前、戸高はお気に入りのキャラクターだとおっしゃられていました。

 彼は、登場させた時の私の予想を超えて活躍していますね。それには、(ドラマ化時の戸高役の)安田顕さんの影響も大きいです。あれほどまで、自分が書いていたときのイメージにぴったり重なるキャスティングは初めてでした。その後は安田さんのイメージのまま、書いていますね。
 これは他の作品ではなかったことです。たとえば「安積班」シリーズが「ハンチョウ」としてドラマ化されたときなども、ドラマと小説はあくまで別な物として書いていました。もちろん、ドラマ版はドラマ版で大変気に入っています。
 それでいうと、「隠蔽捜査」は、わりにドラマと小説が接近しているかもしれない。杉本哲太さんの竜崎も、書いているときのイメージに近いです。古田新太さんの伊丹は、非常に面白くて大好きなキャラクターですが、小説版の伊丹とはまたちょっと違いますね。ドラマ版ならではの伊丹として、楽しませてもらっているところがあります。

――ドラマ化といえば、前作『去就―隠蔽捜査6―』も、既にドラマ化が決定しています。

「隠蔽捜査」が連ドラになった後、キャストの皆さんがどんどん、ますます売れっ子になり、多忙を極めてらっしゃったので、もうドラマ化は無理なんじゃないかと思っていたんです。その方々がまた集まってくれて、奇跡のキャスティングがもう一度実現するというのは嬉しいですね。

職人としての40年

――今作は、作家生活40周年にあたる今年最初の作品でもあります。40年を振り返ってみて、いかがですか。

 気が付いたら40年という感じですね。周りがいろいろ企画してくれているみたいですが、自分では特別なことは何もありません。連載を坦々と書いていきます。40年、そうして同じことを続けてきただけですから。職人のような仕事だなと思います。
 純文学では高い芸術性も求められるでしょうが、エンターテイメント小説の場合、いかに一定レベルの作品を――より正確に言えば、一定のように見えながら、ちょっとずつでも向上した作品を――仕上げていくかにかかっているんですよね。
 エンターテイメントってインフレーションするんです。つまり、ずっと同じことを書いていると、つまらなくなったと言われてしまう。だから、同じものを作っているようでいて、少しずつ技術は向上していかなければいけない。そういう意味で、職人さんと一緒だなと。それを続けていくことで、名人の域に達する人がいるわけですよね。演奏家にも近いかもしれません。毎日繰り返し練習して、少しずつ技術を向上させていかなければならない。
 だから、40年間同じことをやってきて、小説はきっとうまくなっていると思います。10年後はたぶんさらにうまくなっている。そのさらに10年後は……生きているかわかりませんが(笑)。

――いやいや! 50年、60年とまたお祝いさせてください。

 実は「安積班」シリーズは、今年で30年なんですよ。エド・マクベインの「87分署」シリーズは50年続いたらしいので、あと20年頑張れば追いつけるかもしれないという話を編集者としました。

――おお! 楽しみですね。「隠蔽捜査」は今13年なので、まだまだ先は長そうです。

 13年で9冊か……もうちょっと執筆ペース落としてもいいんじゃない?

――そんな!

 冗談はさておき、40周年を迎えてなお、仕事があるのはありがたいことだとつくづく思っています。デビューして最初の頃は、仕事がずっとあるのか、不安でしたからね。執筆ペース自体は40年間、あまり変わっていないと思いますが。

――今野さんの担当をさせていただくようになってから、一番驚愕したのは抱えていらっしゃる〆切の多さです。一体、毎月どれだけの枚数を書かれているのでしょうか……。

 平均すると月に(400字詰め原稿用紙換算で)200枚くらいかなあ。まあ、それくらいなので大したことはありません。デビュー当時は、月400枚書けと言われました。たしかに、笹沢左保さんとか、西村寿行さんとかは、当時本当に、それくらいは普通に書いてらしたんですよね。

――空手塾や音楽レーベルを主宰されたり、ワンフェスに模型を出品されたり、地方や海外への出張もこなされながらの200枚、本当に驚異的です。一体いつ執筆されているのか、ずっと不思議で……。

 まあ自宅にはほとんどいないですよね。小人さんが寝ている間に夜な夜な……ということがあればいいのですが。まじめな話、移動中の新幹線や、あとは意外と出張先のホテル等のほうが集中できたりもします。

――これだけの作品を書かれるアイディアがどこからわいてくるのかというのも気になります。

 そんな大層なものではないですが、取り寄せたり、書棚に入ったりしている資料をパラパラ眺めているうちに思いついたりしますね。

――40年を迎えても変わらないこと、逆に変わったことはありますか。

 変わらないことは明らかで、読者の方に「読んで元気になってもらおう」ということだけは決めています。だから、これまでに190作以上書いてきましたが、全部ハッピーエンドです。
 変わったことは何もないですね。しいていえば、デビューした頃は編集者は全員年上でしたが、徐々に自分より若い編集者のほうが増えたということくらいでしょうか。あとは、40年とは関係ないのですが、最近、(選考委員をつとめる江戸川乱歩賞受賞者の)佐藤究さんの「Ank:a mirroring ape」を読んで衝撃を受けました。自分ももっと頑張らなければと思いを新たにしたところです。

――次の「隠蔽捜査8」は「小説新潮」の今年の9月号から連載をお願いしています。どうぞ宜しくお願いします。

 まださすがに構想は固まっていないですが、そんなわけで資料も綿密に読み込んで取りかかりたいと思っています。取材は既に進めていますよ。

――最後に、読者のみなさまに何かメッセージがあれば。

「隠蔽捜査」という人気シリーズを支えていただいてありがとうございます。これからも書き続けますので、どうぞご期待ください。

波 2018年2月号より

イベント/書店情報

関連書籍

感想を送る

新刊お知らせメール

今野敏
登録する

同じジャンルの本

書籍の分類

棲月―隠蔽捜査7―

全国の書店、または以下のネット書店よりご購入ください。

※ 書店によっては、在庫の無い場合や取扱いの無い場合があります。あらかじめご了承ください。
※詳しい購入方法は、各ネット書店のサイトにてご確認ください。

  • amazon
  • 楽天ブックス
  • 7net
  • e-hon
  • HonyaClub
  • TSUTAYA ONLINE
  • 紀伊國屋書店
  • エルパカBOOKS - HMV
  • honto