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忍びの国

和田竜/著

693円(税込)

発売日:2011/02/28

  • 文庫
  • 電子書籍あり

伊賀忍者団vs.織田信雄軍。騙し騙され討ち討たれ最後に誰が残るのか――。大ヒット『のぼうの城』の著者による痛快無比の歴史エンターテインメント。

時は戦国。忍びの無門は伊賀一の腕を誇るも無類の怠け者。女房のお国に稼ぎのなさを咎められ、百文の褒美目当てに他家の伊賀者を殺める。このとき、伊賀攻略を狙う織田信雄軍と百地三太夫率いる伊賀忍び軍団との、壮絶な戦の火蓋が切って落とされた──。破天荒な人物、スリリングな謀略、迫力の戦闘。「天正伊賀の乱」を背景に、全く新しい歴史小説の到来を宣言した圧倒的快作。

  • 映画化
    忍びの国(2017年7月公開)
目次
第一章
第二章
第三章
第四章
終章
解説 児玉清

書誌情報

読み仮名 シノビノクニ
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
頁数 384ページ
ISBN 978-4-10-134977-0
C-CODE 0193
整理番号 わ-10-1
ジャンル 歴史・時代小説
定価 693円
電子書籍 価格 649円
電子書籍 配信開始日 2014/09/05

書評

“嵐”を呼ぶ物語

大矢博子

 エキサイティングな歴史小説、胸キュン恋愛小説、そしてスポーツノンフィクション。何の共通点もないバラバラのセレクトに見えるかもしれない。
 だが、ある層の人々は、このラインナップを一目見ただけで大きな共通点にすぐ気付くだろう。
 そう、人気グループ「嵐」のメンバーの主演で映像化された三作なのである! うふふ。
 私は四十五年来のジャニーズファンで、本の情報サイト「Book Bang」でジャニーズ出演作品の原作本を紹介する「ジャニ読みブックガイド」というコラムを連載している。その中から嵐に絞って選んだのがこの三作だ。

和田竜『忍びの国』  和田竜『忍びの国』は、2017年に大野智主演で映画化。織田氏と伊賀国衆の戦いである天正伊賀の乱を題材にしたもので、無門という忍びを大野くんが演じている。私が初めて本書を読んだのは映画化の話が出る前だが、にもかかわらず「これ実写化するなら無門は絶対大野くんでしょ!」と思った。それほどぴったりだった。
 無門は、普段はまったくやる気が見られない。口数も少ないし、他の忍びとの競争意識もない。他の人が働いていても自分の仕事が終わったらとっとと帰りたがる。妻に頭があがらず、家に入れてもらえなかったりもする。ところがいざ事が起きると、抜群の身体能力を見せる。
 これがもう、普段はやる気なさげに見えるのに曲が始まるとキレッキレのダンスと抜群の歌でファンを魅了する大野くんそのものなのだ。さらに、本文中の無門の喋り言葉はまさに「大野くんの喋り方」で、ほんとびっくりするから、大野担は是非読んで。

越谷オサム『陽だまりの彼女』  越谷オサム陽だまりの彼女』は2013年に映画化。主人公の奥田浩介を演じたのは松本潤である。
 浩介は仕事先で中学時代の同級生・渡来真緒に再会。ふたりは付き合い始め、結婚を考えるが、実は真緒にはある秘密があったのだ――というベタ甘で胸キュンで切ない恋愛小説である。浩介はごく平凡な普通の優しい青年だ。
 それまでの松潤は、「ごくせん」や「花より男子」などの俺様キャラの印象が強かったので、この普通の青年・浩介には違和感があった。だが映画を見ると、「うわっ、松潤ってこういう表情もできるのか!」と驚きの連続だったのである。何これ嘘でしょ。俺様どこ行った。可愛い……尊い……。
 ただ、映画と原作ではラストの展開が違う。かなり違う。決定的に違う。映画は映画でいいのだが、原作は寂しいんだけどクスっと笑えるような、とても余韻のあるエンディングなのだ。松潤担の皆さんにはぜひ原作のラストシーンを松潤で想像しながら読んでほしい。最後のセリフを悲しげに微笑みながら口にする松潤の顔が浮かぶぞ!

高橋秀実『「弱くても勝てます」 開成高校野球部のセオリー』  映像化されると聞いて驚いたのが、高橋秀実「弱くても勝てます」 開成高校野球部のセオリー』だった。超進学校・開成高校の野球部が甲子園の予選で勝ち進んだ、その背景を追ったノンフィクションである。関係者のインタビューで構成されているノンフィクションをドラマ化ってどうやって?
 2014年に日本テレビで放送された「弱くても勝てます~青志先生とへっぽこ高校球児の野望」では、母校である進学校に教師として赴任し、へっぽこ野球部を率いることになった主人公・田茂青志を二宮和也が演じている。登場人物の設定もストーリーも完全にドラマオリジナルだ。
 じゃあどこが「原作」なのか。インタビューに答えた関係者の言葉を、実にうまいこと登場人物のセリフに割り振っているのだ。「練習は実験の場」とか「守備は文系、バッティングは理系」とか、ドラマに登場した印象的なセリフはこれが元ネタだったのかと膝を打った。
 原作の中にはっきりとしたモデルがいるのはニノの他に中島裕翔くんが演じた白尾で……おっと残念、紙幅がなくなった。三作すべて「ジャニ読みブックガイド」で詳しく取り上げているので、あとはそちらでどうぞ。

(おおや・ひろこ 書評家)
波 2019年8月号より

インタビュー/対談/エッセイ

「無門の一関」を突く 伊賀忍びvs織田軍一万余

和田竜

歴史小説のファン以外も虜にしている『のぼうの城』(小学館)で鮮烈なデビューを飾った和田竜氏。「誰が読んでも楽しめる」(北上次郎氏、TBSラジオ)処女作同様、最新作も虜になること必至の傑作エンターテインメントです。

――小説の前に、演劇、テレビ、映画にかかわっていたそうですね。

和田 大学の頃から、自分で脚本を書いてドラマを撮れたらいいなあと、いま思えば、浅はかにも(笑)憧れていました。それで大学では演劇のサークルに入り、作・演出・出演の3役をこなして勉強しましたが、テレビ局の就職試験を軒並み落ちてしまい(笑)、卒業後はテレビの制作会社に就職。ドラマのADをやっていたんですが、忙しすぎて、脚本を書く時間が取れない。悩んだ末に退社し、映画のシナリオを書いてはコンクールに応募していました。最初の脚本がいきなり2次選考を通過したんですが、次は1次通過止まり、その次は1次も通らずと、どんどん駄目になってくる。こりゃ、いかんぞと思い、やぶれかぶれで、自分の好きな歴史ものを書いてみたら、最終選考まで残った。

――次に書いた歴史ものの第2作で、2003年に脚本家の登竜門として名高い城戸賞を受賞します。

和田 歴史ものは大がかりなセットを組んだり、合戦シーンなどの撮影で、制作費がかなりかかる。でも、これを映画化したら、大金をかけても絶対にペイし、大儲けできるぞという挑戦状のような気持ちで書いていました。城戸賞の受賞作は映画化の企画が進行中ですが、なかなか制作決定に至らず、プロデューサーに薦められ、小説にしたのが『のぼうの城』です。

――最新作『忍びの国』も、スタートは映画で、脚本を書かれたそうですね。

和田 ええ。城戸賞を受賞した後、「歴史ものしかやりません」と触れ回っていたところ、映画会社の方から声をかけていただいた。あれだろうと見当をつけていたら、案の定、忍者ものでした。忍者ものはポピュラーな題材ですし、実際調べてみると、歴史から想起でき、映画になりそうなものがいくつも見つかったんです。たとえば織田信長が伊賀忍びを虐殺したことは知っていましたが、それは第2次の伊賀攻めで、第1次では伊賀者が織田軍に勝っていた。忍びと言うと、それこそ屋敷に忍び込んだり、暗殺したりといった、影働きのイメージがありますが、ちゃんと合戦をし、勝ったこともあったんだと。また、伊賀攻めの主戦場は山の中となり、忍びは猿のように木の間を飛び交い、織田の正規軍をやりこめるシーンをつくれる。そして最もやりたいなと思ったのはダーティヒーローを創り出せることでした。一般的にはどうかわかりませんが、ぼくには忍者は悪のイメージが強かったんです。

――主人公の無門は「伊賀一」と言われる忍びながら、カネを積まないと働かず、想い女のお国には頭があがらない。伊賀攻めが始まると敵前逃亡するが、舞い戻ってくる。カネとお国のために。

和田 これぞ理想のヒーロー像ですね(笑)。自分の理想を徹底的に盛り込みました。ベタと言われれば、これほどのベタはないかもしれませんが。

――無門の戦いぶりと純愛だけでなく、忍び同士の騙し騙されの心理戦もある。伊賀攻めは、天下布武の旗標を掲げていた織田方が進んで起こしたものでなく、伊賀側に企みがあり、織田軍を挑発し、攻め込ませた側面もあったという。

和田 史料に「無門の一関」という忍びの言葉があったんです。忍びの術の本質は飛んだり、跳ねたりの技でなく、他人に悟らせまいとする心の弱み、そこを関門に例えて「無門の一関」と呼び、これを突いて破り、他人を陥れることにあるというのです。伊賀には戦国大名が存在せず、66もの小領主、いわゆる地侍がゆるやかな軍事同盟を結んでいました。しかし、地侍同士はきわめて仲が悪く、互いを欺き、諍いが絶えなかった。伊賀国内の乱れと忍びの術と技、それに織田軍の伊賀攻めを組み合わせたら、面白い物語になると思ったんです。

――敵方の織田信長の次男、信雄と靡下の武将たちにも思惑や屈折があり、見事な群像劇になっています。

和田 敵が弱く、しっかりしていないと、合戦に勝っても、面白くもなんともない。しっかりしているというのは、単に敵が巨大だというだけではなく、敵もドラマを持っているということ。幸い織田方の武将には伊賀攻めの前後で、どのようなことをしていたかわかる史料が残されています。伊賀の出自でありながら、隣国の伊勢に渡って織田家に与した者がいたり、最も忠誠に見えた武将が後年、織田家を裏切ったりと、史実から人物像が自ずと立ち上がってきました。

――魅力的な人物たちと骨太なドラマで、とても映像的ですが、黒澤明でも撮るのは難しいかもしれません(笑)。

和田 脚本で書き尽くしたつもりだったので、小説にすると、セリフだけの読物になるんじゃないかと思っていました。でも、『のぼうの城』も『忍びの国』もどんどん書きたいことが出てきて、ますます映画化しにくくなってしまったかも(笑)。黒澤映画はとても好きで、「椿三十郎」を観たときは、かなり勇気付けられました。ああ、これでいいんだ、これが物語なんだと。ぼくが目指しているのも、わかりやすいテーマと起伏に富んだ物語。『忍びの国』のテーマは、善が悪を攻め、悪が善に勝ってしまうことで、悪である忍びにも、胸の内に秘めた哀しみがあり、それゆえに一途に女性を愛したり、善にも悪にも矜持や悩みがある。スタートこそ映画でしたが、『忍びの国』は自分が読みたい要素をすべてを盛り込めた小説になったと思います。

(わだ・りょう 小説家)
波 2008年6月号より

著者プロフィール

和田竜

ワダ・リョウ

1969(昭和44)年12月、大阪府生れ。早稲田大学政治経済学部卒。2003(平成15)年、映画脚本『忍ぶの城』で城戸賞を受賞。2007年、同作を小説化した『のぼうの城』でデビュー。同作は直木賞候補となり、映画化され、2012年公開。2014年、『村上海賊の娘』で吉川英治文学新人賞および本屋大賞を受賞。他の著作に『忍びの国』『小太郎の左腕』がある。

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