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ニシノユキヒコの恋と冒険

川上弘美/著

572円(税込)

発売日:2006/07/28

  • 文庫
  • 電子書籍あり

どうして僕はきちんと女のひとを愛せないんだろう。男一匹ニシノユキヒコの、恋とかなしみの道行きをたどる傑作連作集。

ニシノくん、幸彦、西野君、ユキヒコ……。姿よしセックスよし。女には一も二もなく優しく、懲りることを知らない。だけど最後には必ず去られてしまう。とめどないこの世に真実の愛を探してさまよった、男一匹ニシノユキヒコの恋とかなしみの道行きを、交情あった十人の女が思い語る。はてしなくしょうもないニシノの生きようが、切なく胸にせまる、傑作連作集。

  • 映画化
    ニシノユキヒコの恋と冒険(2014年2月公開)

書誌情報

読み仮名 ニシノユキヒコノコイトボウケン
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
頁数 288ページ
ISBN 978-4-10-129234-2
C-CODE 0193
整理番号 か-35-4
ジャンル 文芸作品、文学賞受賞作家
定価 572円
電子書籍 価格 539円
電子書籍 配信開始日 2014/01/31

コラム 映画になった新潮文庫

原幹恵


 不規則な仕事をしていると、本を読む時間が細切れになってしまいます。どうしても物語に入りこむのが難しくなるので、大きな活字で組んだり、要点が掴みやすいデザインになっている自己啓発本などを読むことが多くなります。素敵な女性になるための自分の磨き方、みたいなやつですね。
 でも、やはり物語を読むことも大切で、そんな時には〈連作短篇集〉がいいみたいです。この本もそんなスタイルの一冊。カバー裏の紹介文を引用してみます。
「姿よしセックスよし。女には一も二もなく優しく、懲りることを知らない。だけど最後には必ず去られてしまう。とめどないこの世に真実の愛を探してさまよった、男一匹ニシノユキヒコの恋とかなしみの道行きを、交情あった十人の女が思い語る」
 つまり、ニシノ君と恋愛関係に落ちた女性がそれぞれの思い出を語る十篇の短篇小説から出来ています。私は、死んだニシノ君(の幽霊?)が出てくる冒頭の短篇「パフェー」から惹かれました。今年の梅雨の季節はこの本の一篇一篇を、いろんな場所で時間をかけて読んでいきました。
「パフェー」は、ニシノ君と不倫関係のあった主婦が語り手。ある昼下がり、彼女の家の庭に、「死ぬときには夏美さんのところに行くよ」と言っていたニシノ君が現れます。折角、死んでから会いに来てくれているのに、夏美さんはほとんどニシノ君を相手にせず、娘のみなみに相手をさせます(二人が付き合っていた時、みなみも一緒に会うことがあり、彼に懐いていたので)。
「わたしは台所に戻って揚げ物をした。みなみはずっとニシノさんの隣に座っていた。揚げ物の油の始末をしていると、みなみの叫び声が聞こえた。/去ったな、と思った」
 そして、母娘はそうめんの箱をバラした板でニシノ君の小さなお墓を作ってあげます。この自分の中でケジメをつけている夏美さんがいい。会いたいけど、会わない。一度断ち切ったひとには愛おしさを見せない。これは他の短篇、「おやすみ」のマナミさんも「まりも」のサユリさんも他のいろんな女性たちも同じです。いや、小説の中だけでなく、女子会で喋りあう私の友人たちみんなもそんな感じ。よく言われるように、男性はこれまでの恋愛を別フォルダに入れて、新しい恋愛は新規フォルダに入れるけれど、女性はあっさりと上書きしちゃうのかもしれません。
 それに女性の目から言えば、結局ニシノ君が悪い。先の紹介文にあるように、確かに優しいかもしれないけど、実は優しい人って沢山います。ニシノ君は恋人を満たしてくれる思いやりがないんですね。「どうして僕はきちんとひとを愛せないんだろう」と言うニシノ君に、マナミさんが内心、「かわいそうなユキヒコ。でも、自分のせいなんだから、わたしは知らない」と思う通りです。私は〈こんな男、ほんとヤダ〉と思いながら、面白く読み終りました。
 映画版は竹野内豊さんが本当にカッコよくて、ニシノ役にピッタリ! ニシノ君の葬儀で出会ったみなみとサユリさんが彼を思い出していく構成も良かった(これは映画版のオリジナル構成)。ラスト近くにある、みなみ(中村ゆりかさん)のアップには涙しました。


(はら・みきえ 女優)
波 2016年8月号より

著者プロフィール

川上弘美

カワカミ・ヒロミ

1958(昭和33)年、東京都生れ。1994(平成6)年「神様」で第一回パスカル短篇文学新人賞を受賞。1996年「蛇を踏む」で芥川賞、1999年『神様』でドゥマゴ文学賞、紫式部文学賞、2000年『溺レる』で伊藤整文学賞、女流文学賞、2001年『センセイの鞄』で谷崎潤一郎賞、2007年『真鶴』で芸術選奨文部科学大臣賞、2015年『水声』で読売文学賞、2016年『大きな鳥にさらわれないよう』で泉鏡花文学賞を受賞。その他の作品に『椰子・椰子』『おめでとう』『ニシノユキヒコの恋と冒険』『古道具 中野商店』『夜の公園』『ざらざら』『パスタマシーンの幽霊』『機嫌のいい犬』『なめらかで熱くて甘苦しくて』『猫を拾いに』『ぼくの死体をよろしくたのむ』『某』『三度目の恋』などがある。

判型違い(単行本)

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