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言ってはいけない中国の真実

橘玲/著

781円(税込)

発売日:2018/03/28

  • 文庫

なぜ高層ビルが林立するゴーストタウン「鬼城」は中国のいたる所に建設されたのか?

崩壊説を尻目に急速な経済成長を遂げた人口13億の大国・中国。満州からチベット、内モンゴルまで、その隅々を旅した著者は、至るところで不動産バブルの副産物で「鬼城」と呼ばれるゴーストタウンに出くわす。高層ビルが林立する超モダンな廃墟が建てられる元となった「錬金術」の仕組みに着目し、日本と異なる国家体制、組織のあり方、国民性を読み解く新中国論。『橘玲の中国私論』改題。

目次
文庫版まえがき
はじめに 中国を驚くということ
PART1 中国人という体験
1 ひとが多すぎる社会
大富豪の御曹司からいかさまギャンブラーへ/頬に傷のある女シュエ/デラシネと任侠/中国でパソコンを買うには/アジアの人口をランキングすると/アジアはゆたかでヨーロッパは貧しい/DIYと人海戦術/産業革命と勤勉革命/中国の「西部開拓時代」/中国と日本の統治構造/宗族というセイフティネット
2 幇とグワンシ
生命より大切な友情/よく似ているからわかりにくい/裏切られることを前提とする社会/社会的資源としての「信頼」の不足/高倉健が中国で人気のある理由/中国と日本はどちらが「特殊」か?
3 中国共産党という秘密結社
人民解放軍に接収された列車/日本のお役所を観光する/うす暗い駅の待合室で、王さんはふうとため息をついた/秘密結社、白蓮教/秘密結社の掟/黒社会の誕生/毛沢東のユートピア/中国にはなぜヤクザ組織がないのか/癒着する黒道と赤道/村人を毒殺した農婦の主張
PART2 現代の錬金術
4 経済成長を生んだゴールドラッシュ
中国を理解する6つの視点/「お金儲けの神様」の秘訣/郷鎮企業の錬金術/1990年代のゴールドラッシュ/「女性の美しさ」まで売る地方政府/「国進民退」は起きているのか?/国策としての携帯電話産業/格安携帯会社の“垂直分裂”/最適戦略は「短期利益」と「成功者のコピー」
5 鬼城と裏マネー
アリ地獄のような金融制度/爆発的な公共投資の理由/元本保証で年利10%/錬金術の正体/中国社会を支える裏マネー/“富への扉”は閉じられつつある/中国を動かす謎の巨大銀行/WIN‐WINの関係/フィールド・オブ・ドリームス
6 腐敗する「腐敗に厳しい社会」
自分の同級生には貪欲な幹部になって欲しい/国務院総理・朱鎔基への直訴状/「わしら農民は人間ではありません。豚や犬より下です」/重税はたちまち元に戻ってしまった/中国共産党は地方を管理できない?/中国は腐敗に厳しい社会/収賄は正義の実現/賄賂を受け取らないのは精神障害/二重権力と無責任/人口ボーナスと人口オーナス/生産年齢人口が減少するとバブルがはじける?/2020年、人類史上最大のバブルが崩壊する
PART3 反日と戦争責任
7 中国のナショナリズム
元日本代表監督が率いる中国チーム/サッカーの“グローバルスタンダード”/日本人を乗車拒否する理由/「排外」と「拝外」/「反日教育」批判は正しいか?/ナショナリズムを認め、ウルトラナショナリズムを批判する/中国は「知日派」を必要としている
8 謝罪と許し
黒人を差別したリンカーン/「加害国」ドイツと「被害国」日本/悪いのはすべてナチスとヒトラー/「日本人」に戦争責任はない/まずは読み方の統一から
9 日本と中国の「歴史問題」
日本人はどこから来たのか/日本人とモンゴル人はなぜ似ているのか/弥生人は中国南部からやってきた/中国によって生まれた「日本」/自虐史観と自尊史観/万世一系と小中華思想/中国の強国意識と弱国意識/文明としての中国/日本から生まれた「中国」
PART4 民主化したいけどできない中国
10 理想と愚民主義
中国の歴史はなぜ同じ繰り返しなのか/破壊と再生/毛沢東王朝の末期的症状/共産党は民主化を必要としている/愚民への恐怖
11 北京コンセンサス
ワシントンコンセンサスの挫折/独裁政権を援助する中国/アフリカのインフラをまるごとつくる/果実が落ちるのを待てばいい/強くなるほど弱くなる/分裂する権力
12 中国はどこに向かうのか
孔子と武士道/中国はEUになるのか
13 「超未来世界」へと向かう中国(文庫書き下ろし)
民主政のもとでの身分差別と、平等な社会における独裁/海外のインターネットサービスが遮断できる理由/中国のIT企業は規制を必要としている/「電子決済社会化」という革命/国家(党)に流出する膨大な個人情報/「天網工程」に接続される6億台の監視カメラ/「超未来世界」を生きるひとびと
あとがき
中国10大鬼城観光
1 内モンゴル自治区・オルドス市
“廃墟都市”観光のメッカ。中国の不動産バブルがよく分かる
2 天津市・濱海新区
日本からのアクセスが良好! 北京から日帰り見学も可能
3 海南島・三亜市
「中国のハワイ」に大規模開発が。7つ星ホテルやテーマパークなどが幻に
4 河南省・鄭州市
黒川紀章が都市設計を手掛けた人口150万人想定の大規模鬼城
5 安徽省・合肥市
蜃気楼のように農地の先に浮かぶ高層マンション群が悲惨
6 内モンゴル自治区・フフホト市
売り出せないビル群が鬼城化。まるで映画のセットのよう
7 内モンゴル自治区・清水河県
人口17万人の地方都市でも起きた不動産バブルのなれの果て
8 河南省・鶴壁市
石炭価格の上昇と新幹線駅の誘致でバブル化した街
9 浙江省・杭州市
突如現れる1/3のエッフェル塔。シャンゼリゼ通りもある「天都城」
10 上海市・松江区
上海にロンドンの街を再現し、破綻後も撮影スポットとして人気

書誌情報

読み仮名 イッテハイケナイチュウゴクノシンジツ
シリーズ名 新潮文庫
装幀 AFP=時事 /カバー写真、新潮社装幀室/デザイン
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
頁数 368ページ
ISBN 978-4-10-121351-4
C-CODE 0133
整理番号 た-123-1
ジャンル 社会学、地理・地域研究
定価 781円

書評

根っこは中国の人口問題

福島香織

 日本人の多くが中国に親しみを感じていない、という割には、中国論というのは、意外に根強い需要がある。大学キャンパスを歩いても地下鉄に乗ってもショッピングモールでも公営団地でも、至るところから中国語が聞こえる時代。それほど中国と中国人が身近でありながら、理解できない。理解ができないから、嫌悪したり反感を持ったりするし、同時に幻想や過剰な期待を抱いたりもする。理解できないまま、ほっておくという選択肢もあるのだが、理解できそうで理解できないままにしておくのは、もやもやと気持ち悪い。領土・領海という核心的利益をめぐる対立がある以上、中国という国がどこに向かっていくのかを知る必要も感じている。
 そこで、皆がいろいろなアプローチの仕方で、中国と中国人を自分なりに納得いくまで“解剖”してみようと試みる。結果、専門家、作家の数だけ中国論・中国人論があって、それが結構、多様で、中には相反するような論が同じ現象や資料を根拠に両立してしまうから面白い。中国は(孔子を政治利用しているが)孔子を捨てた国だ、という意見もあれば「儒教に支配されていることが中国人の悲劇」というものもある。中国のAIがスゴイ、イノベーションがスゴイ、という見方もあれば、中国人は山寨(パクリ)ばかりで新技術を生み出す創造力はない、と断ずる人もいる。政治的、経済的、歴史的、人文学的、あるいは権力闘争史的な視点、庶民の暮らしの実情リポート、いずれの方向から切り取っても、それなりに説得力のある面白い中国論、中国人論というのができる。
 橘玲氏の『言ってはいけない中国の真実』は、そういう数ある中国論の中では最もイデオロギー的に偏りがなく、幅広いテーマを網羅した一冊だ。いわゆる“中国でメシを食っている”人ではないので妙な思入れがなく、中国批判にも中国礼賛にも与しない。軍事、安全保障や政権・党内部のレジティマシー、権力闘争、人間関係やイデオロギー・路線対立から分析するオタク向けの論ではなく、海外を歩き、中国を歩き、投資家目線で華僑や中国人たちとの付き合い、体験の中で感じたことの物語的描写から始まる。宗族、独特の人脈主義“関係(グワンシ)”、信用の枯渇や潜規則(暗黙のルール)、裏切り、腐敗といった社会・政治の現象、中国経済の異様な不動産バブルや特色ある金融システムのからくりなど、一般日本人が考える「中国的なるもの」を、歩き回って得た見聞、豊富な読書量に裏付けられた知性で考察していく。
 そうした橘的中国論の柱となるのは「人が多すぎる」というひどく単純な指摘だ。中国に人権意識がほぼ存在しないのも、中国人が村や会社や国家という共同体から安心感を得られずに、宗族という血脈や「グワンシ」と呼ばれる利害の一致によって結ばれるネットワークを一番のセーフティネットとして頼るのも、膨大すぎる人口のせい。腐敗するのも、裏切るのも、中国が民主化できないのも、不動産バブルが起きたのも、このバブルがはじけるのかどうかも、根っこは中国の人口問題、という具合だ。しかし、そのシンプルな答えに説得力がある。
 もちろん、いくつか反論を唱えたい部分もある。例えば「中国を批判するひとたちは、……華夷思想を中国共産党の行動原理になっていると主張する」と指摘して、それを在日中国人歴史学者の劉傑氏の中国共産党の歴史観の背後にあるのは「華夷(強国)思想」ではなく「弱国意識」という言葉を引用して否定している。中国脅威論をもっぱらとしている私のような“中国屋”に対する意見、と思うが、華夷思想は元朝という夷狄による侵略と支配によって文明が築かれたことに対する華人のコンプレックスから生まれた、という説をとれば、華夷思想自体が弱国意識の合わせ鏡みたいなものだ。私は、習近平政権が掲げる“運命共同体”論や“一帯一路戦略”が、欧米スタンダードと全く違う中華秩序の拡大、現代版冊封体制だと見ている。
 さて、橘氏の見立てでは、中国の共産党による“近世的支配”は、民主的な正統性を欠くために常に人民の不満にさらされ、疲弊し、不安定化し、自滅していく。その運命に日本は巻き込まれざるを得ない。その“大問題”に備えるために、どうすればよいかは、読者は自分たちで考えねばならないので、ますます多様な視点の中国論を求めるのである。

(ふくしま・かおり ジャーナリスト)
波 2018年4月号より

著者プロフィール

橘玲

タチバナ・アキラ

1959年生まれ。作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』が三十万部超のベストセラーに。『永遠の旅行者』は第19回山本周五郎賞候補となり、『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で2017新書大賞を受賞。

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